高校野球NO.1メディア編集長に聞く強豪校の秘密。技術だけではない「野球ノート」で鍛える「野球脳」
夏の甲子園が終わり、新しい夏の甲子園へのストーリーはすでに始まっている。
監督への反論を書くことも
――たくさんの高校を取材してきて印象に残っているノートを教えて下さい
「選手が監督さんに直接言えないこともノートでは素直な気持ちで書けたりするんですよね。
例えば、練習試合で、打順を変えられた選手が、その日のノートに『なんで、僕は打順を変えられたんですか? 正直、納得いかないです』と書いているんです。すると、翌日。監督さんからは、その理由と、その選手に対する激励の言葉が書かれていました。その言葉をきっかけに、選手は大きく成長していく姿をみて、そういったノートのやり取りも印象的でした。
――野球ノートに取り組むことでどういったメリットがあるのでしょうか。
何より、自分と向き合う時間が作ることができるというのが大きなメリットだと感じます。
グラウンドの中で、何時間練習をしていたとしても、その日の自分のプレーに対して振り返りをしたり、アドバイスをもらったことを忘れずに書き留めておく、いわば“復習”の時間を作ることで、野球に対する理解度や自分自身の成長度合いは大きく変わってくると思うのです。実際に取材をしてきたチームの選手たちも、ノートを書くことの大切さを心から理解して取り組んでいました。
――そうしたことを『野球ノートに書いた甲子園』という本の形で表されたわけですね。この本を通じて伝えていきたいこととは何でしょうか。
「一番は高校球児たちが、どんな思いで3年間高校野球に取り組んでいるのか。毎日どんなことがあって、試合ではどんなことを思っているのか。ケガをした日、練習で上手くいかない日。そんな日々も、どう乗り越えて、強くなっていくのか。
その成長が彼らのノートから、手に取るように伝わってきます。甲子園に出場できた球児も、夢に届かなかった球児も、同じだけの3年間の時間を歩み、高校野球と野球ノートを通じて、大事なものを見つけていく。その過程を多くの方に知っていただき、何か熱い気持ちを感じていただけたら嬉しいなと思って、取材を続けてきました」
※
「野球ノート」への取り組みに対する熱量は、強豪校であれ、地方大会止まりのチームであれ関係がないという。そのノートをひとたび読めば、球児がどれだけ一球に全力を注ぎ、チームの成長を願っているかがわかるのだ、と。
「がばい旋風」と称され、無名校から一気に甲子園の頂点にまで上り詰めた佐賀北高校は「野球ノート」に取り組み続ける高校のひとつであるが、百崎監督は野球ノートについてこう語っている。
「あったからって勝てるものではない。でもなかったら勝てなかったかもしれない。それはわかりません。ただ、記憶の鎖というかね、彼らのなかにも僕のなかにも残るものがある」
高校野球の魅力は、グラウンドだけにあるわけではない。それは甲子園を目指すための努力もまたしかりだ。「野球ノート」を書き、いわば「野球脳」を鍛えることで、より逞しい球児へと育っていく。
甲子園ーー。こうした知られざる取り組みがあるからこそ、あの夢の舞台がより輝くのだろう。
- 1
- 2