小林よしのり×伊藤祐靖 新・国防論
日本人は国のために死ねるのか(1)
第1回 「自分だけが断れない」日本人の国民性の恐ろしさ
命を投げ出すための大義名分
小林 本の冒頭で書かれている能登半島沖不審船事件も、自衛隊のリアルな現場がよく伝わってきました。その現場で、伊藤さんが常に「この北朝鮮の工作船には拉致された日本人がいるかもしれない」と想定しているのがすごいと思いましたね。単に不審船が領海内に入ってきたというだけの話ではない。
伊藤 あのとき、「みょうこう」(イージス艦)の乗員はほぼ全員がそうは思っていたでしょうね。日本人が乗っている可能性がある、意識で動いてたと思います。
小林 その場合、拉致被害者を奪還しようとすれば、救った人数よりも多くの犠牲者が出るかもしれない。それでも隊員たちは、意義のある任務だから引き受ける。
伊藤 いや、実はそこまで考えてないんです。そこが日本人の国民性の恐ろしさの一つでしょうね。この邦人救出は自分の命と天秤にかける価値があるのかとか、そんなことは考えていない。あのときは24名の隊員がいたんですが、おそらくその半分以上は「自分だけこの任務を断るわけにはいかない」という気持ちだったと思います。
小林 そうか、同調圧力が働くんだ。
伊藤 でも、何かすがるものがほしい。だから、「行く意味はあるのでしょうか?」と疑問を抱いた部下に対して、私が「国家がその意志を発揮する時、誰かが犠牲にならなければならないのなら、それは我々がやることになっている」と言ったら、その部下は「ですよね」とホッとした顔をしたのでしょう。
小林 命を投げ出すための大義名分が欲しいんですね。
伊藤 熟考に熟考を重ねて行かない人や、すぐに行くって決める人もいるんですが、少数です。大多数の人は、同調圧力で人生を決めてしまいます。要は、周りと同じ行動をとろうとする。だから、大勢の流れが変わり始めると一気に右の端から左の端に吹っ飛んでいくのが日本人の特性ではないかと思います。
(第2回に続く)
いとうすけやす。1964年東京都生まれ、茨城県育ち。日本体育大学から海上自衛隊へ。防衛大学校指導教官、「たちかぜ」砲術長を経て、「みょうこう」航海長在任中の1999年に能登半島沖不審船事件に遭遇。これをきっかけに自衛隊初の特殊部隊である海上自衛隊の「特別警備隊」の創設に関わる。42歳の時、2等海佐で退官。以後、ミンダナオ島に拠点を移し、日本を含む各国警察、軍隊に指導を行う。現在は日本の警備会社等のアドバイザーを務めるかたわら、私塾を開いて、 現役自衛官らに自らの知識、技術、経験を伝えている。著書に『とっさのときにすぐ護れる女性のための護身術』、『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』 (文春新書)がある。
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