小林よしのり×伊藤祐靖 新・国防論
日本人は国のために死ねるのか(4)
第4回(最終回)自衛官たちが納得して命を賭けられるようになるには
先月発売された『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』(文春新書)が話題沸騰中の伊藤祐靖氏。
この国の未来を憂うふたりが、国防と自衛隊の存在意義について問う、注目の対談、ついに最終回!
「あなたの国は、おかしい」
伊藤 小林さんの『ゴーマニズム戦歴』(ベスト新書)を読ませていただきました。個人的には、暗殺の対象として、狙われていたときの話が一番盛り上がりましたけど、なかなか会えないですよ、暗殺されそうになった人って(笑)。笑い事じゃないんですが……。そういうときに人間の性根って見えますよね。話のトーンが一気に下がっちゃう人なんていくらでもいますよ。全然下がらないところが痛快です。あと、アメリカに対する考え方はかなり近いものがあると思いました。フラットな感性で見てられると思います。私も自分の本で米軍の実態をずいぶん書きましたが、あれが軍隊のスタンダードなんです。私も本物とじっくり付き合うまでそうだったんですが、アメリカに対して「凄いはずだ」みたいな妙な妄想を抱いているんですよね。だから、そのギャップにびっくりするんですけど。小林さんは小学生時代のベトナム戦争のときからアメリカ嫌いで一貫しておられるそうで。普通の感性でみれば「それっ横暴過ぎないか?」って思うのは当たり前だと思います。
小林 最近あまりにもわしの立場が誤解されることが多いので、思想的な遍歴をわかってもらうためにこの二十数年間を振り返る本を作ったんですけど、自分でもビックリするぐらい一貫してましたね(笑)。基本的にアメリカが嫌いだから、例のミンダナオ島の女性戦士の言葉には「いいこと言ってくれた!」と膝を打ちましたよ。
伊藤 突然、「あなたの国は、おかしい」と言い始めた話ですね。
小林 そうそう。どこかで日本国憲法の制定過程を知って、「あなたの国の掟は、誰がつくったの?」「アメリカの掟がそんなに大事なの?」「原爆を二発も落とした奴にしてもらいたいことって、いったい何なの?」と畳みかけられて、伊藤さんがタジタジになってますよね。
伊藤 もう、ほんとにちっちゃくなって聞いてました(笑)。
小林 めっちゃ正論だから、何も言い返せないですよこれは。彼女のような素朴な感覚を失うのは怖いですよね。今の日本人は、自国内に外国の基地があっても居心地の悪さや屈辱的な気持ちを感じない。アメリカもアメリカで、バイデン副大統領がトランプに向かって「日本の憲法はわれわれが作ったんだぞ」なんて堂々と言い放ちましたからね。占領した国の憲法を作るのは国際法違反なのに。それでも日本人は「侮辱するな!」と怒らないんですよ。何から何までアメリカの言いなり。
伊藤 何かが抜かれてしまったんでしょうね。私も彼女にああ言われてから、考えがまともな方向に戻ってきました。靖国神社の問題にしても、たぶん彼女が知ったら間違いなく「日本人は頭おかしいんじゃないか?」と言うでしょう。自分の部族を守るために戦って死んだ人の弔いを、隣の部族の親父がブツブツ言うから止めますなんて、彼女には理解できない。「私だったら5時間以内に殺す」と言い始めるかもしれません(笑)。
小林 彼女、すぐ「殺す」とか「死ぬ」とか言うもんね。「私はそういう人と同じ時間を生きないの。どちらかが死ななければならないわ」とか、すごい台詞。
伊藤 震えますよね。命を軽くみているのではなく、譲れない一線というのを持ってて、それを譲ってまで生きる気はない。みたいな気概ですね、これが戦いの本質だと思いました。
小林 こういう基本的な独立心みたいなものを、日本人は戦後70年かけてどんどん失っていったんですよ。残念ながら。
伊藤 独立国家として譲ってはいけないラインがある。私は自衛隊に20年いたのに、それがわかっていなかったんです。彼女のおかげで、独立心が抜かれていたことに気づかされました。
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