21世紀の東京はただただとても土が堅かった――。<br />“プロレタリア芸人”が綴る、東京悲観記。 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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21世紀の東京はただただとても土が堅かった――。
“プロレタリア芸人”が綴る、東京悲観記。

現在観測 第42回

今日だけでしたら耐えれんねん。明日もあるから嫌やねん。

 東京では嫌だ嫌だという毎日ですが、大概明日が嫌なんです。今日だけでしたら耐えれんねん。明日もあるから嫌やねん。でも、今までどんな長丁場の現場でも終わらなかったことはありません。明日の現場仕事は明後日の朝までありますけれど、これも必ず終わります。なんだかんだ言いながら耐えれるようになりました。

 耐えれないのは嫌な奴です。叱るではなくて怒る人って嫌な奴です。ダメージを与えようとするだけの奴。でも最近こういう奴を完全にスルーする方法を身につけました。それは妄想を拠り所とすることです。僕は『本坊元児』という映画の主人公であり監督です。この映画がどう展開していくのか、まだハッピーエンドがあるかどうかは分かりません。だけど今のところ『真夜中のカーボーイ』のような展開になりそうです。そう、都会で成功することを夢見てニューヨークにやってきた青年が、夢破れ、悲惨な結末をむかえるあの映画のような。

 思えば今まで沢山の脇役に僕の映画に出てもらいました。家族や芸人仲間達。そしてただその場に居合わせただけのエキストラも沢山いました。そんな中、嫌な奴が現れ僕に嫌なことを言う。そいつは嫌なこと言う役のオーディションに合格して僕の前に現れたのです。そしたら僕は監督としてそいつにこう言ってやります。

「台詞もらえて良かったな。でもここカットやわ」

「お前みたいなクソはカットや」

 こうやってやり過ごしてください。やり過ごせば何でも耐えれます。でももし我慢出来ずに殴ってしまい自分が逮捕されることになりますと、それはそれでストーリーとして結構な盛り上がりです。映画としても使わざるを得なくなってしまう。でもそのまま復讐劇にするのも癪に触る。あるいは嫌なやつにいじめられても自殺はしたらいけません。そしたらあなたの映画のクライマックスは自殺になり、いじめっ子は主要キャストになってしまいます。クソみたいな奴は自分にとってどうでもいい存在のはずです。とにかくやり過ごせやり過ごせ。そしたら死なずにいけます。東京に行っても、環境が変わっても自分が変わらなければ何も変わらないのです。だからジッとして五感を消してやると嫌なことはどうせ去ります。

 僕はこのような術を得て東京をやり過ごしています。

 しかし気が付けば僕の映画は大工映画でした。

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本坊 元児

ほんぼう がんじ

1978年8月7日生まれ。愛媛県出身。



吉本興業所属のお笑い芸人。



2001年に水口靖一郎とソラシドを結成した。



NSC時代の同期に麒麟川島らがいる。



2015年に扶桑社より刊行された、自らの壮絶な肉体労働の日々を



つづった自伝的エッセイ『プロレタリア芸人』が話題を呼ぶ。




 


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