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どうなれば成功なのか?【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第26回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第26回

 

【現在の職業は修理屋】

 

 最近の工作の80%は修理である。古くて半分壊れているおもちゃを長年買い集めてきたので、これらを倉庫から引っ張り出しては、分解し、なんとか機能が復活するまで修復している。新たに部品を作らないといけない場合も多いけれど、なんともならないというものはない。なんとかはなる。生き物と違って、人工物は必ず修理して復活できる。大部分が壊れているときは、その大部分を作り直せば良いだけのこと。

 人間の場合はこうはいかない。自然に治るものもあるが、そうはいかないときは、人工物を体内に入れたり、あるいは移植しかない。たとえそれをしても、寿命が少し延びるだけで、いつか死ぬことに変わりはない。躰のすべてを機械にしてしまう以外に、永遠に生きることはできないし、それが可能になったとしても、「生きている」の定義が問題になるだろう。

 壊れた機械を直す行為が面白いのは、どうしてなのかな、といつも考える。壊してしまうよりは、直す方がずっと面白い。これは、生き物の本能だろうか? もしかして、「生きる」とは「直す」という行為の集積だろうか?

 

芝生の近くに栗の樹が1本あって、8月中旬から毬栗を落とし始めている。犬たちが踏まないように、気づいたら拾って、デッキの手すりに並べる。だいたい、これが1日分。もう少ししたら、この10倍は落ちるようになる。

 

文:森博嗣

 

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森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。

 

 

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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