「体型についてとやかく言われたくない!」
女性がそう考えるわずらわしさの正体。
「瘦せのカモフラージュ」って何?
摂食障害になった女性たちとの30年余りの交流の軌跡が話題の書に!
そこで、新たな工夫が必要になるわけです。
体重測定の際、なるべく厚着をしたうえで、ポケットに重いものを入れたり、見えないところにおもりを巻きつけたり。尿意をギリギリまで我慢し、直前に大量の水を飲むというのも有効です。
ある瘦せ姫がブログでアドバイスを求めたところ、
「手足につけるタイプのおもりがあるよ。百均に売ってるような250グラムのやつを、2コずつ計4コつければ1キロ。あとは水をガブ飲みだね」 と、別の瘦せ姫が提案したり。治療においては、体重によってその方針が変わったりしますから、それこそ、100グラムの差が命運を左右したりするのです。
ある瘦せ姫は治療中も体重が増えず、26キロを切ったらIVH療法を行なうと宣告されていました。高カロリーの輸液を静脈から入れるやり方です。
彼女はカムフラージュによってこれを何度か回避したものの、ある日、失敗します。抜き打ちの測定に薄着で体重計にのってしまい、表示された数字は25・8キロ。彼女はブログに「一生の不覚」と書きました。
実際、この瘦せ姫にとって、それは大げさな表現ではなかったはずです。
「この体重を維持しているほうがつらいのに。私が好きでやっていることなのだから、手遅れになっても誰も恨まないよ。太ること、大きくなることが怖いんだ」
とまで、書いていたほどですから。いわば、彼女にとって瘦せることは命がけの戦いだったのです。
そういえば「カムフラージュ」というのはもともと軍事用語で、偽装や迷彩を利用して敵をあざむくという意味です。瘦せをアイデンティティとする瘦せ姫は兵士さながら、瘦せた体を守るために日夜戦っているようなものなのでしょう。
その主戦場のひとつが、体重測定。それは自分との戦いであるとともに、周囲との戦いでもあるわけです。
(註1)『青年の精神病理1』笠原嘉/清水將之/伊藤克彦編(弘文堂)
(註2)『女性セブン』1996年1月25日発売号(光文社)
(つづく……。※著書『瘦せ姫 生きづらさの果てに』本文抜粋)
【著者プロフィール】
エフ=宝泉薫(えふ=ほうせん・かおる)
1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』などに執筆する。また健康雑誌『FYTTE』で女性のダイエット、摂食障害に関する企画、取材に取り組み、1995年に『ドキュメント摂食障害—明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版。2007年からSNSでの執筆も開始し、現在、ブログ『痩せ姫の光と影』(http://ameblo.jp/fuji507/)などを更新中。