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撮っても乗っても楽しい「SLばんえつ物語」

力走する「SLばんえつ物語」

 新潟駅と会津若松駅(福島県)を結ぶ「SLばんえつ物語」。午後遅くに会津若松駅を出発して新潟駅に向かう列車に乗ってみた。乗車まで時間があったので、会津若松駅から普通列車で10分程のところにある塩川駅近くで、朝新潟を出発して、お昼過ぎに会津若松駅に到着する汽車の雄姿を撮影してみた。SL列車は撮影するのも楽しいものである。

グリーン車の座席

 会津若松駅に戻り、駅構内で入換する汽車の様子を見物したあと、いよいよ「SLばんえつ物語」の客となる。この列車に乗るのは、今回が初めてではないのだが、しばらく乗らないうちに客車が大幅にリニューアルされていた。以前は連結されていなかったグリーン車に興味があったので、その指定券を取っておいた。「SLばんえつ物語」は快速列車なので、普通列車用グリーン券は1670円。特急券は不要なので、普通車指定券との差は1000円程度と4時間近く乗車することを考えると意外にリーズナブルである。そのせいかほぼ満席であった。

機関車のお尻が見えるグリーン車のパノラマ展望室

 グリーン車は通路をはさんで1人掛け席と2人掛け席が並びゆったりしている。私の席は1人掛けだから、隣の人に気兼ねすることなく頻繁に席を離れることができるのは都合がよい。パノラマ展望室とは仕切りをはさんですぐ隣の席だったので、まずは展望室を覗いてみる。新潟行きの場合は、この車両が機関車の次に連結されるので、絶えず機関車のお尻を眺めながら進むことになる。

 

大きな汽笛を耳にすると、定刻の15時25分に発車。煙をもくもくと吐いて動き出した様子がよくわかる。ぐんぐん引っ張られていくようにがたんごとんと揺れながら走る感覚は、電車とは全く異なる乗り心地だ。

最後尾のオコジョ展望室

 車掌さんがやってきて、マイクを使わず肉声で挨拶する。観光列車らしい対応で好感が持てる。車内が落ち着いたようなので、とりあえず車内見物としゃれこみ後部車両に移動する。グリーン車が7号車で最後尾が1号車の7両編成だ。5号車にある売店、4号車の展望車を素通りして1号車に行ってみる。この車両は、オコジョルームという子供の遊び部屋になっている。オコジョとは、沿線に生息するイタチ系の動物で、「SLばんえつ物語」のマスコット・キャラクターなのだ。最後尾はオコジョ展望室で、新潟行きの場合は、ここから去りゆく線路をいつまでも眺めていることができる。楕円形の木のベンチがあり、ガラス張りとなっている3方向を見ることができる。大きな木が展望室のど真ん中に立っていて、ベンチは木の幹の周りを囲んでいる感じだ。森の中の木陰でくつろいでいるような雰囲気をイメージしているそうだ。

 

 列車は、蔵の町やラーメンで有名な喜多方駅を出ると、会津盆地から山岳地帯へ入っていく。オコジョ展望室から眺めていると、か細い単線の線路はところどころ雑草に覆われ、いかにもローカル線といった風情である。目も眩むような一ノ戸川橋梁を渡ると山都着。この先は阿賀川の渓谷に沿って進む絶景区間となる。阿賀川は福島県から新潟県に入ると阿賀野川と名前を変える。川は線路と絡み合うように何度となく鉄橋を渡るたびに車窓左に移ったり、右手に現われたりする。

 

 渓谷美を堪能するならと、4号車の展望スペースに移動。窓を向いたソファーや止まり木のような椅子があり、車窓を思う存分眺められる。この車内には記念スタンプが押せるコーナーがあり、さらにそのとなりにはレトロな郵便ポストもある。前回利用したけれど、葉書にスタンプを押して、送りたい住所を書いて投函すると後日配達してくれるのだ。なかなか面白い試みだと思う。

 

 野沢駅で10分程停車。機関車の点検を行う。蒸気機関車の写真を撮っていたら、女性アテンダントさんが記念写真はいかがですか声をかけてくれたので、記念ボードを持ってカメラに収まる。ボードには乗車日が書いてあるので、よい記念になるだろう。

 野沢駅を出てしばらくすると、席に戻るようアナウンスがあった。各車両でじゃんけん大会があるという。景品は列車のロゴの入ったピンバッヂのようだ。3回戦あったけれど、今回はすべて敗退。景品はもらえなかった。

津川駅で給水中のC57形蒸気機関車

 阿賀野川の川幅が広くなってくると津川着。2回目の長時間停車で、今回は15分。機関車の点検と給水を行う。昔のような給水塔があるわけではなく、今風にホースをホームの先端部から延ばしてきて炭水車に水を補給するのだ。相変わらず機関車の周囲は人だかりがしている。この駅のホーム後方には待合室があるが、メルヘン的な「オコジロウの家」となっているのが楽しい。待合室に関しては、皆機関車周辺に集まってしまうせいか人気はイマイチであった。

 

 津川駅の発車は17時34分。9月初旬は、もう薄暗い。列車は夕暮れの中を新潟へ向かう。新津駅到着の頃には、まわりは暗くなり、夜汽車の雰囲気である。汽笛がどこか物悲しく聞こえるのは気のせいであろうが、4時間近い旅も終りに近づき、その別れの辛さゆえかもしれない。かくして19時06分、定刻に新潟駅に到着。列車を牽引して勤めを果たしたC57形180号機にねぎらいの挨拶をして、ホームを後にした。

夕暮れ時に新潟へ急ぐ「SLばんえつ物語」(別の時に撮影、機関車はC61)

野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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