「鬼滅の刃」がイスラーム世界と日本をつなぐ切り札に? 中田考×山本直輝が語る日本サブカルの可能性
隣町珈琲でのトークショーより
■重要キーワード「シン・ムガル主義」とは?
続いて、中田氏が提唱する「シン・ムガル主義」というキーワードについても議論が及んだ。中田氏の著書において、次のような文脈で登場する。
「核兵器は言うまでもなく、重火器すら持たないタリバンが、国連加盟国すべてから『反社(反国際社会)』の汚名を着せられ、経済制裁を科されながらも、世界覇権国アメリカから賞金首として追われ、20年にわたって戦い抜き、最終的に勝利を収めることができたのは、タリバンが依拠する『何か』が、19世紀西欧的帝国主義の遺制である現行の国際秩序に対抗しうる力を有しているからに他ならない。本書はその『何か』を、1526年から1858年の間にインドを支配したムガル帝国に因んで『シン・ムガル主義』と呼びたい」(『宗教地政学で読み解くタリバン復権と世界再編』P.57)
中田氏は「シン」という言葉のチョイスについて、こう解説する。
「もともと『ネオ・ムガル主義』という言葉がありましたが、それを『シン・ムガル主義』として流行らせたいと思っています。今、映画『シン・ゴジラ』が代表的ですけど、『シン』は世界的に広まっている日本語なんです。『シン』にはいろいろな意味がありますよね。真っ先に思いつくのは『新しい』のシン。ただ、それだけの意味では歓迎されない。次に浮かぶのは『真実』のシン、そして『神』のシン、『深い』のシン…何でも意味を持たせることができるんです」
ムガル帝国の成り立ちについても解説。帝国の創始者バーブルはもともとアフガニスタンの出身で、ムガル帝国は現在のアフガニスタン、インド、パキスタン、バングラデシュだけでなく、さらに広範囲にわたる影響力を持っていた。中田氏は「アフガニスタンは田舎で、経済制裁を受けた貧しい国というイメージは誤りで、かつての大帝国・ムガル帝国の継承国家として捉えるべきだ」と語った。
シン・ムガル主義は、アフガニスタンを起点にイスラーム法に基づいて拡張していく。タリバンには武闘派のイメージがあるが、実際には穏やかに「教育していく」アプローチであるという。
「タリバンは本質的には教育者で、法学者ではありません。イスラーム法を守らなかったから罰するのではなく、教育を受けていない人々を、自らが手本となり、少しずつ正していくという考え方です」
山本氏は「覇道と王道の2つがあるとすれば、タリバンは覇道ではなく、(王道として)自らがカリフ制の後継者として徳を示し、その徳が世界を照らす。それに感化された人々が、タリバンに倣うようになるということですね」とまとめた。