「鬼滅の刃」がイスラーム世界と日本をつなぐ切り札に? 中田考×山本直輝が語る日本サブカルの可能性
隣町珈琲でのトークショーより
■日本のアニメ・マンガが「リンガフランカ」になる可能性
対談で最も興味深かったのは、イスラーム世界における日本のアニメ・マンガの影響力についての議論だった。山本氏は、トルコの寺子屋で教鞭をとっているが、次のように明かす。
「休憩時間になると、生徒たちはYouTubeやスマホで『鬼滅の刃』を熱心に見ています」
さらに、「NARUTO」や「ワンピース」などの作品が、イスラーム世界の若者たちの間で共通言語として機能していることも指摘した。山本氏はこの現象の重要性を次のように説明する。
「日本のアニメ・マンガは、私とムスリムの生徒たちとの間で共通言語として機能しています。これが、トルコだけでなく、湾岸諸国やイギリス、アメリカのムスリムたちの間でも同じ現象が起きています。彼らの共通言語は『鬼滅の刃』なんです」
寺子屋で学ぶイスラーム世界の若者たちは、日本のアニメやマンガで描かれる学びのプロセスや師匠との関係に共感するという。
中田氏もこう語る。
「日本のアニメ・マンガは、むしろイスラーム学を勉強している人たちの方が興味を持つんです。イスラームを学んでいない人たちはアメコミで満足するかもしれませんが、イスラームを勉強している人たちは、もっと深く通じる部分があるんです」
山本氏は、この現象を「ウンマ(イスラーム共同体)の再興」と結びつけて解釈した。
「中田先生が長年夢見てきた『ウンマの再興』が、日本のアニメを通じて実現しているのではないかと思います。カリフ制再興や帝国の再編は荒唐無稽に見えるかもしれませんが、ムスリムの一体性は、現実に我々の目の前にあるんです」
また、山本氏はカリフ制の議論やイスラーム研究がもっと日本で進められるべきだと訴えた。
「中田先生はこの15年間、ずっとカリフ制について語ってきましたが、それを引き継ぐお弟子さんが増えていないように感じます。欧米に比べて、日本は言論の自由が保障されていますし、イスラムフォビアもまだ少ない。私たちは、もっとこの研究でイニシアティブを示すべきだと思います」
中田氏は「我々の遺産であるアニメ文化を活用しない手はない。まずは東アジアの中でできることを進めていく」と述べた。
取材・構成:BEST T!MES編集部