新庄耕著『地面師たち』 不動産詐欺から見えてくる日本の会社と社員のリアル【緒形圭子】
「視点が変わる読書」第14回 『地面師たち』新庄耕 著
◾️仕事を続けるほど会社の価値観から抜けられない
三作目の『カトク』では、ブラック住宅メーカー、巨大広告代理店、IT系企業に蔓延する長時間労働やパワハラを取り締まる東京労働局の過重労働撲滅特別対策班、通称「カトク」の一員を主人公に据え、会社と個人の問題に切り込んだ。
「カトク」のメンバーである城木は過重労働に苦しむ社員や過重労働を強いる会社の経営者と対峙するうちに、日本社会全体が抱える問題に気づいていく。
経済成長を前提とする限り、会社はより高い売り上げ目標を掲げ、それを達成していかなければならない。当然会社に大きな儲けをもたらした社員が高く評価され、地位を上げていく。社員はそれを重荷に感じながらも、評価を求めて頑張ってしまう。一日の大半の時間を会社で費やし、仕事を続けるうちに会社の価値観に染まり、そこから抜け出せなくなる。
『地面師たち』は新庄が初めて手掛けたエンターティメント小説で、これまでの小説とは路線が異なるように見えるが、実は延長線上にある。
この小説は実際の事件を元に書かれた。2017年に起きた「積水ハウス地面師詐欺事件」である。住宅メーカー大手の積水ハウスが、品川区西五反田にある旅館「海喜館」の土地約600坪の購入代金55億円を騙し取られた事件である。
実際の事件でも、会社内に問題があった。当時、積水ハウスの権力は会長と社長で二分されていた。社長は会長の力が及びにくいマンション事業で権力拡大をはかりたく、どうしても海喜館の土地を手に入れたかった。実際に指揮をとったのはマンション事業本部長で、彼は社長の強い後ろ盾のもと、土地取得を強引に進めた。社長案件に口をはさめる社員はおらず、信じ難い手抜かりが重なり、55億円が騙し取られるという結果になった。
『地面師たち』は不動産詐欺という特殊なテーマを扱いながら、現在の日本の会社と社員のリアルを伝えている。
文:緒形圭子
KEYWORDS:
✴︎KKベストセラーズ 好評既刊✴︎
『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』
国家、社会、組織、自分の将来に不安を感じているあなたへーーー
学び闘い抜く人間の「叡智」がここにある。
文藝評論家・福田和也の名エッセイ・批評を初選集
◆第一部「なぜ本を読むのか」
◆第二部「批評とは何か」
◆第三部「乱世を生きる」
総頁832頁の【完全保存版】
◎中瀬ゆかり氏 (新潮社出版部部長)
「刃物のような批評眼、圧死するほどの知の埋蔵量。
彼の登場は文壇的“事件"であり、圧倒的“天才"かつ“天災"であった。
これほどの『知の怪物』に伴走できたことは編集者人生の誉れである。」