「ボーイフレンド」(Netflix)と「いちばんすきな花」(フジ)からみる、視聴者たちの“浄化”への欲求【梁木みのり】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「ボーイフレンド」(Netflix)と「いちばんすきな花」(フジ)からみる、視聴者たちの“浄化”への欲求【梁木みのり】

 

 「いちばんすきな花」の脚本を手がけた生方美久は、同じく脚本家である坂元裕二のファンを公言しており、このドラマの設定も明らかに坂元の「カルテット」(2017年、TBS系)を意識したものだ。しかし、ドラマの世界観の中で完結したコメディ・サスペンスとして一級品の「カルテット」に対して、「いちばんすきな花」は視聴者の生きる現実に徹底して寄り添い、モヤモヤを“浄化”していく。2作品の狙いは全く異なるのだ。

 “浄化”という点では、世界を席巻する男性K-POPグループのいくつかにもその働きを見出すことができる。トップ中のトップであるBTSは、長年にわたる音楽プロジェクトの中で、若者の生きづらさにフォーカスしたMVをいくつも発表した。ユング心理学の影響を受け、「Love Myself」というスローガンを掲げて、世界中のファンがメンタルヘルスに目を向けるようになるためのメッセージを発信してきた。

 日本でスタジアムツアーを成功させた人気グループSEVENTEENも、13人という大人数にもかかわらず全員の仲がとても良いことや、“全楽曲がファンソング”と言われるほどのファンとの心理的距離の近さで評価されてきた。近年は、「FML」や「SOS」といった楽曲を通して、生きづらい社会に対してともに声を上げようというメッセージを伝えている。

 この点で、かつての男性アイドル王者であったSTARTO系グループは、遅れを取っていると言わざるを得ない。もちろんどのグループも仲は良いはずだが、BTSSEVENTEENのように「他者と共存していくには、こう生きよう」というメッセージを強く打ち出しているグループは、今のところ見受けられない。

 独自の人間関係哲学を形成していたのは、「一度も喧嘩をしたことがない」「多数決がルール」という嵐くらいか。しかしそれも嵐自体の円滑な運営という目的にとどまり、ファンやテレビの視聴者にまで普遍化されることはなかった。

 視聴者たちはかつて、自分たちと無関係なテレビの向こうの嵐の仲の良さを楽しんでいたのだ。そこには、「嵐がずっと5人でいてほしい」という思いはあったかもしれないが、「生き方を学んだ」といった、視聴者自身の生きる現実に引きつけた感動はメインではなかっただろう。

 テレビ全盛の時代はそれでもよかった。コンテンツは、現実と切り離して、動物園の檻の中を見るように楽しむものだったからだ。しかしスマホが普及し、SNSYouTubeがエンタメのメインとなった現代では、コンテンツは限りなく視聴者の現実に近づき、踏み込んでくる。出演者や脚本家が自分と同じSNSを使っていて、こちらからダイレクトにコメントができるのだ。

 同時に、都市化による人々の心理的孤立が進み、疲弊した社会になった。そこでコンテンツの視聴者たちは、現実とは無関係な刺激への逃避よりも、現実と地続きの癒しや“浄化”を求めるようになったのではないだろうか。

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梁木みのり

はりき みのり

ジェイ・キャスト所属ライター

ライター

Z世代。ジャニヲタ歴12年。K-POPオタク歴まだ2年。ジェイ・キャスト所属ライター。早稲田大学卒。

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