2024年、世界は収拾がつかなくなっている【佐藤健志】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

2024年、世界は収拾がつかなくなっている【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」50

ウラジミール・プーチン

  

◆現実解体は泥沼化への道

 まずはウクライナ戦争。

 2024年に入ってから、戦いの主導権はロシア側に移ったと言われ、6月には「劣勢打開が見通せないままの戦争長期化は、ゼレンスキー大統領に政治的打撃を与えている」と報じられました。

 ロシア軍が着々と占領地を広げてゆき、やがてプーチンが勝利するのではないかという話。

 

 ところが86日、ウクライナ軍は突如としてロシア西部のクルスク州に侵攻!

 ロシア領内に外国軍が攻め込んだのは、じつに19416月、ヒトラーが攻略をもくろんで以来のこと。

 制圧した地域は、ウクライナ領内のロシア占領地域に比べれば、はるかに小さいものの、「ロシアによる一方的な侵攻」という開戦当時からの図式はくつがえされました。

 ロシア軍が当初、撃退に向けた動きを見せなかったこともあって、今度はプーチンの政治的権威が地に落ちたと報じられる始末。

 

 おまけにこのロシア侵攻、アメリカやEUの意向とは関係なく行われた可能性が高い。

 それどころかアメリカは、ロシア領内で秘密作戦を計画していたウクライナにたいして「米ロ関係がこれ以上、緊張しては困る」と圧力をかけ、やめさせたことがあると言われるのです。

 

 だが、ゼレンスキーは攻め込んだ。

 「ウクライナは米欧の操り人形」という、開戦当時からのもう一つの図式もくつがえされたことに。

 イギリスなど今や、米欧供与の長距離射程兵器でロシアを攻撃したいというゼレンスキーの要望に前向きと伝えられます。

 劣勢の国が主導権を握りかねないとは、いったい、どうなっているのだ?

 

 まさに「何でもあり」。

 プーチンは今なお、ロシアが絶対に勝つと確信していると言われますが、だとすればこれは「すべてが思い通りになるはずなのに、すべてが思い通りにならない」状況そのもの。

 ウクライナ戦争は、いよいよ泥沼化し、収拾がつかなくなるのではないか、そう言わねばなりません。

 現実が解体されているがゆえに、カタのつけようがなくなってしまい、戦いがいつまでも続く次第です。

 

 中東におけるイスラエルとパレスチナの紛争にも、類似の特徴が見られることはご存知のとおり。

 とはいえ、「何でもあり」による泥沼化のさらなる例として挙げるべきは、目下、アメリカで行われている大統領選挙でしょう。

次のページ負けたら内戦だ、と上院議員は叫んだ

KEYWORDS:

オススメ記事

佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

新自由主義と脱成長をもうやめる
新自由主義と脱成長をもうやめる
  • 中野 剛志
  • 2024.03.13
平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路
平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路
  • 佐藤 健志
  • 2018.09.15
感染の令和: またはあらかじめ失われた日本へ
感染の令和: またはあらかじめ失われた日本へ
  • 佐藤健志
  • 2021.12.22