石丸伸二や米山隆一への誹謗中傷とは? 「悪党」をキャンセルするための差別ならOK⁈【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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石丸伸二や米山隆一への誹謗中傷とは? 「悪党」をキャンセルするための差別ならOK⁈【仲正昌樹】

「悪党」退治のためのダシとして差別される人たち


ネットリンチが日常風景となった日本社会。「友/敵」思考が過激化していく社会は今後どうなっていくのか? 「ナチ・プロ」「統一教会」「ホスト問題」「AI問題」etc. 哲学者・仲正昌樹が現代社会を鋭く分析し、この先の世界を予測した新刊『ネットリンチが当たり前の社会はどうなるのか?』(KKベストセラーズ)が発売になる。今回は、「『悪党』と決めつけた人物をキャンセルするためならどんな差別もOKなのか?!」。キャンセル・カルチャーが蔓延している今、気づかなければいけない〝恐るべき現実〟がここにある。


石丸伸二

  

◾️石丸伸二氏と米山隆一氏に攻撃を加えたサヨク

 

 ネット上では、失言する有名人を徹底的に攻撃し続け、社会的に抹殺しようとするキャンセル・カルチャーがはびこっている反面、キャンセルのターゲットを罵る人たちが、そのためのネタとして、関係ない人たちを引き合いに出し、結果的に侮辱するということがしばしば起こっている。

 簡単に言うと、保守的な政治家や評論家をけなす時に、「壺」(=統一教会)とか「トーイツ」という言葉を使う類のものだ。「壺」を罵り言葉として使うということは、①「統一教会」自体がナチスのような存在してはいけない集団、関わったら汚染されてしまう危ない集団と見なしたうえで、②けなす対象の人物が、その一員であるか、もしくは、犯罪の共犯などの極めて密な関係にある、ということが前提になる。

 しかし、「〇〇は壺」とか「壺〇〇」等の罵り言葉を使っている人たちの多くは、「壺」に関する明確なイメージを持っていないし、罵っている対象と「壺」との関係も曖昧で、どこかのネット記事かワイドショーでそう言っていた、といった漠然とした記憶があるだけだ。本当は「統一教会」自体を問題にしているのではなく、自分が攻撃したい相手の評価を下げるために、世間の大半から悪いイメージを持たれている、統一教会と結び付けたいのである。「統一教会」がばい菌、ウィルス、公害等のように、罵りの強さを高める言葉として使われているのである。

 例えば、東京都知事選で、左派統一候補のような位置付けだった蓮舫氏が、前安芸高田市長の石丸伸二氏に二位の座さえ奪われそうになると、ネットサヨクを中心に、統一教会系のメディアでMCをしている保守系の評論家が、石丸氏を応援していることをもって、石丸氏が統一教会信者であると決め付けたうえ、統一教会にMCで支配されている自民党が石丸氏を影で支援している、という強引なネガティブ・キャンペーンが始まった。問題にされた評論家は信者ではなく、普通の保守主義者であり、石丸氏本人は、自民党の公選法違反事件で前市長が辞任したのを受けて当選した、反自民的なスタンスの人である。彼を「統一教会=自民党」というのはかなりのこじつけだが、騒いでいた人たちは、石丸氏の評価を下げるために一番効果がありそうなレッテルならなんでもよかったのだろう。

 

米山隆一

 

 これまでリベラル・反自民のイメージの強かった米山隆一氏に対するネットサヨクのX上での攻撃にも同じような傾向が見られる。クルド人差別に加担したと左翼・リベラル陣営から非難されていた――本人は差別したと認めていない――元川口市議を、立民が次期衆議院選の候補に選んだ件で、その候補を擁護する立場を米山氏が取ったのが発端だ。味方と思っていた同氏が敵側に回ったと思ったサヨクたちが、彼の言動も実は差別主義的、無自覚的にいろんな人を差別している、と言い出したわけである。

 彼らは急に米山氏の過去の言動を問題にし始めたわけであるが、その中に、二年前の新聞に載っていた――米山氏の名前も含まれる――「統一教会と接点のあった議員」のリストを引き合いに出してきたMAOshamballaというアカウント名の人物がいた。そもそも、「統一教会との接点」などという曖昧なものの有無を新聞が、実名を挙げて報道すること自体がどうかしているのだが、それから二年も経つというのに、MAOshamballaはその接点のリストに載っていたことが、米山氏の決定的な汚点であるかのごとく得意になって吹聴していた。それで私は、「統一教会との接点とはどういう意味で言っている。自分でも分かっていないのではないか」、と指摘した。

 すると、MAOshamballaは不意を突かれて動揺したのか、「統一教会のことを言っているんじゃない。勘違いするな」、と言う。一体何を言っているのか? 「統一教会との接点」で米山氏を責めるということは、「統一教会」自体を、触れてはならない「悪」だと見なしているということだ。そう指摘したのだが、MAOshamballaは、本当に理解できないのか、ふざけて逃げようとしたのか、「はあ、大学教授のくせに『接点』の意味も知らないんですか?」と言って、コトバンクの「接点」の意味を貼り付けるなどして、なかなか間違いを認めようとしない。

 私の両親くらいの年代の人達は、他人を罵る時に、しばしば「バカ」とか「気持ち悪い」のような意味合いで、無自覚的に「朝鮮(人)」と言っていたが、「朝鮮人」とはどういう人なのか具体的なイメージはもっていなかった。MAOshamballaにとって「統一教会」は、それと同じような常用の罵り言葉になっていたのである。その言葉が具体的に何を指しているのか、それを耳にした当事者がどう思うか、全く考えていないし、考える必要すら認めていないのだ。それが、他人の無自覚的な差別を糾弾する人間がやることか。

次のページ「壺」を糾弾している大半は、実際は「統一教会」には関心がない

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『ネットリンチが当たり前の社会はどうなるか?』

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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