石丸伸二や米山隆一への誹謗中傷とは? 「悪党」をキャンセルするための差別ならOK⁈【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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石丸伸二や米山隆一への誹謗中傷とは? 「悪党」をキャンセルするための差別ならOK⁈【仲正昌樹】

「悪党」退治のためのダシとして差別される人たち

統一教会の合同結婚式

 

◾️「壺」を糾弾している大半は、実際は「統一教会」には関心がない

 

 そう思っている内に、「壺」を糾弾している連中の大半が、実際の「統一教会」にはあまり関心がなく、自分が嫌っているものについての様々なイメージを、「壺」という言葉に投影し、それに合わせて、軽蔑しやすい「統一教会信者」のイメージを作り上げているだけではないのか、という気がしてきた。反統一の人たちが勝手な都合で、「壺」に付与しているステレオタイプの負の属性とし以下を上げることができる:

① MCされていて自分の頭で考えることができない

② 教団本部や自民党に言われたことは全て無条件に信じ、実行する

③ CIA等の諜報機関の下請け仕事やネット上の世論工作をしている

④ 教団のために他人の生命・財産を奪うのは正義だと信じている

⑤ 一度統一教会の教えを受け入れた後、棄教したら地獄に行くと信じている

⑥ 日本は韓国に奴隷として仕えるべきだという韓国中心主義を刷り込まれている

⑦ 従って頭が悪い。

 世の中の差別のほとんどは、差別されている当事者たちが実際どういう性質なのか確かめることなく、蔑称に付随するいくつかのステレオタイプな“属性”の組み合わせで、勝手に負のイメージが独り歩きすることで、維持・拡大されていくのだろう。

「統一教会」問題で、まさにそれが今進行している。統一教会信者を憎むのに、実際の信者に出会い、彼らをじっくり観察する必要はない。「壺」をめぐってネットで流布しているイメージに同調していればいいのである。

 外国人やLGBTQの人に対する差別の場合、外的な標識が全くないわけではないので、街でそれらしい人を見かけて差別意識が増幅するということがあるだろうが、統一教会信者は元々人数が少ないうえ、宗教上の儀礼を行なっている場面を見ない限り、見分けることは不可能。ある程度の知識がないと、統一教会の儀礼だと判別できない。私は金沢大学に二十七年近く勤めていて、信者らしい教職員・学生に出くわしたことがないので、金沢大に信者はいないと思っているが、確信はない――十一年半信者だった私にして、そうである。

 統一教会信者は、能登地震の被災者や支援者を誹謗していると言っている者がいる。無論、それは彼らから見て、被災者・支援者を誹謗しているように見える人間が、彼らの「統一教会信者」のイメージと何となく一致しているから、そう言っているだけであって、誹謗しているとされる人物の真意や、その人が本当に統一教会信者であるかは関係ないし、そもそも関心がない。

 統一教会の実際の信者を、テレビの映像でしか見たことがない人がほとんどだから、いかようにもイメージが作れてしまう。人数が少なく、はっきりした外的特徴もないのに、自民党を支配しているとか、陰謀論的な噂が先行している「統一教会=壺」は、実体と関係なく差別対象のイメージを作れてしまう典型だ。

 統一教会信者が、改宗業者による信者の拉致監禁の問題を訴えるポストを、「地図に無い未来」というアカウント名の、普段サヨク的な言動が目立つ人物がリポストしていたので、あれっ、と思って注意して見ていたら、しばらくすると、案の状、「なんだ。統一教会の人が拉致監禁されたという話なのか。勘違いしてた!さっきのポストは即削除して、引用元は勿論ブロック(笑)」、とポストした。

 私が思った通りのいやな展開だったが、拉致されている対象が統一教会信者だと分かったとたん、笑い話にしてデリートするという感覚が信じがたかったので、どういうつもりか聞いたところ、最初はやはり冗談にしようととぼけていたが、最後は、「僕は統一教会のために悲惨な目に遭っている〇〇さんのケースを問題にしているんだ。あんたがまずこの〇〇さんの問題に答えろ」、と逆質問でずらそうとしてきた。

 自分が「統一教会信者」のことだったらどうでもいい、という不真面目な態度を取っていた、という自覚がない。あるいは、自覚を拒否しているのである。

「地図に無い未来」にとって、「統一教会信者」というレッテルに対応するのは、他人を拉致してMCする人間ではあっても、拉致される側の人間ではない。だから彼は、仲間が拉致されたという統一教会信者の主張が本当かどうか吟味することなく、笑い話として削除してしまったのである。

次のページ他人を批判する時に、別の人間で例えるという無自覚な罪

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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