地域で子どもたちの遊ぶ姿が見掛けられなくなって久しい。「遊び場」と「外遊び」を失った子どもたちのその後とは【西岡正樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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地域で子どもたちの遊ぶ姿が見掛けられなくなって久しい。「遊び場」と「外遊び」を失った子どもたちのその後とは【西岡正樹】

 

◾️子どもの力を侮ってはいけない

 

 後発隊は、1人の女子が伊勢原駅近くで腹痛を訴え歩けなくなってしまいました。およそ16㎞地点で徒歩旅は終了せざるを得ません。約束通り、後発隊は市営バスに乗りキャンプ場近くの日向薬師(バスの終点)まで行き、さらに1㎞ほどの上り坂を歩いて日向キャンプ場に到着しました。しかし、その後は先発隊と同じように予定スケジュールをこなすことができたのです。腹痛を起こした子どもの保護者はキャンプ場まで迎えに来てくれましたが、子どもはすでに回復していたので家に帰らずキャンプ場に残りました。夜のキャンプファイヤーも含め、一人も欠かさずにすべてを実施できたことは何よりの成果です。ところが、翌朝、腹痛を起こす子どもがもう1人出てしまい、いくつかの予定をキャンセルしなくてはならなくなりました。先発隊のような夜中のアクシデントもなく落ち着いた朝を迎えていたのですが、結局後発隊も早々に切り上げ、帰路に立ったのです。

 

 「子どもの力を侮ってはいけない」

 この「サバイバル徒歩旅」を終えた私の実感ですが、その思いは今でも変わりません。このおよそ22㎞の徒歩旅を実行できた子どもたちは、毎日のランニングや野外生活、炊飯の訓練など特別なことをやってきた訳ではありません。体操や水泳、サッカーなどを習っている子は数人いましたが、ほとんどの子どもたちは毎日の外遊びで体を動かしているだけで特別に体を動かしていません。日常生活の延長としてこの「サバイバル徒歩旅」は行われました。それでも1718名の子どもたちは協働し、22㎞(16㎞)を歩き、テントを張り、自炊し、キャンプファイヤーをして、一日を過ごすことができたのです。

 それでは、現在の公立小学校の5年生が同じように22㎞を歩き、テントを自力で張り、自炊し夜を過ごせるかといえば、それはなかなか難しいでしょう。それは、子どもたちの生活環境があまりに違いすぎるからです。現在の5年生は、外遊びをせず、自分のことは自分でするという環境の中で育っていません。しかし、今も子どもたちが「Learning by doing」にあるように、体験の中に学びがあるという生活(遊びも含めて)を日常的に繰り返していれば、けっして不可能なことではないと思います。

 子どもが遊んでいる時間は子どもの「自治する時間」です。また、子どもが遊んでいる「遊び場」は子どもの自治する空間です。そこでは大人の力は及びません。子どもたちだけの力で動かなければなりません。私はこれまでにも何度か訴えてきましたが、子どもの自治する時間や空間の中で、子どもたちは生きる力である「非認知能力」(忍耐力、他者と繋がる力、主体的に動く力)を育んでいるのです。(遊びの中でもLeaning by doingは成立している)その力が「サバイバル徒歩旅」の中で十分に発揮されたのではないかと、私は思っています。

 子どもの力を侮ってはいけませんが、子どもは幼く育てれば幼く育ちますし、逞しく育てようと環境を整えれば逞しく育つ存在です。つまり、子どもは与えられた環境の中で、その環境に合わせた成長をしていきます。遊び場や遊ぶ時間を失った子どもたちは、当然のことながら、子どもが幼く育てられ自立心が育たず、子どもが遊びを通して育んできた力を失ってしまったのです(他にも要因はありますが)。このような状況が30年近く続いていれば、子どもたちの「非認知能力」が低下することは、誰もが頷けることなのではないでしょうか。

 

 今、学校教育の中においても「主体的・対話的な深い学び」というスローガンの元「非認知能力」の重要性が叫ばれていますが、主体性がなく協調性がない子どもたちが目立ち始めたのは、前述したような子どもを巡る環境が大きく変わったからです。

 この30年の間、子どもたちは遊びを奪われ、自分たちの自治する(自分のことは自分でする)時間さえも奪われてきたのですから、今の子どもたちの現状は当然と言えば当然のことなのです。

 であるならば、大人が子どもたちから奪った「遊びの場」や「子どもの自治する時間」を子どもたちに返さなければなりません。それができないようであれば、それに代わる場や時間を大人が創造し、子どもたちに提供しなければならないのです。思うのですが、過去を取り戻すことができないのであれば、そうするしかないでしょう。

 

文:西岡正樹

 

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西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

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