福田和也という人物と仕事をした5年間の記憶【適菜収】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

福田和也という人物と仕事をした5年間の記憶【適菜収】

【隔週連載】だから何度も言ったのに 第72回

福田和也氏

 

■トンカツと国家権力

 

 福田は基本的には温厚な人間である。あるとき、変なトンカツ屋の店主が絡んできたので、私が戦闘態勢をとると、「まあまあ」みたいな感じで止められた。しかし一度だけ怒ったことがあった。当時、内田樹が「贈与論」について書いた記事が話題になっていて、他にもいくつかネット記事が出てきた。それでトンカツ対談の際、私が「贈与論みたいなものが流行っているんですか」と話題を振ると、珍しく「そんなもの流行っていないよ!」と大きな声を出した。一般社会とは関係のない狭い世界の話を「流行」という言葉に関連付けたことが気に入らなかったんだろうなと、当時の私は思った。真相はわからないが。

    *

 「揚げたてご免!!」で私が見出しに使った「快楽の思い出はナチだろうとスターリンだろうと誰も奪えない」という福田の言葉がある。いい言葉だなと思った。やりたい放題やって思い出を溜め込んで生きてきたのだから、死んでも悔いはないのかもしれない。まあ、死んだら思い出もゼロだけど。

    *

 この話の流れで言うと、昔、石丸さんと目白にあんみつを食べに行ったことがある。歩いていると、警察官5人くらいとすれ違った。そのとき石丸さんが「官憲でも心の中にまで踏み込むことはできないからなあ」とボソっと言った。

    *

 さらにこの話の流れで言うと、澤口さんが六本木を歩いていて職務質問され、鞄から包丁が出てきて大騒ぎになったらしい。コックだと言っても信じてもらえなかったと。澤口さん、見た目はチンピラかヤクザ。その警察官の気持ちもわかる。

    *

 「ラ・ゴーラ」の後、澤口さんは近くに「リストランテ アモーレ」という店を出した。アモーレの料理は強烈だった。だから他のイタリアンに行っても、物足りなく感じる。「アモーレ」でやっていた福田の仲間内だけの忘年会に、私は呼ばれてもいないのに間違えて行ってしまったこともあった。ネットで調べたら、アモーレがあったのは20042012年とのこと。光陰矢の如し。人生、あっという間ですね。

 

文:適菜収

 

KEYWORDS:

✴︎KKベストセラーズ 好評既刊✴︎

福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる

 

 

国家、社会、組織、自分の将来に不安を感じているあなたへーーー

学び闘い抜く人間の「叡智」がここにある。

文藝評論家・福田和也の名エッセイ・批評を初選集

◆第一部「なぜ本を読むのか」

◆第二部「批評とは何か」

◆第三部「乱世を生きる」

総頁832頁の【完全保存版】

◎中瀬ゆかり氏 (新潮社出版部部長)

「刃物のような批評眼、圧死するほどの知の埋蔵量。

彼の登場は文壇的“事件"であり、圧倒的“天才"かつ“天災"であった。

これほどの『知の怪物』に伴走できたことは編集者人生の誉れである。」

オススメ記事

適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

自民党の大罪 (祥伝社新書 702)
自民党の大罪 (祥伝社新書 702)
  • 適菜 収
  • 2024.08.01
福田和也コレクション1: 本を読む、乱世を生きる
福田和也コレクション1: 本を読む、乱世を生きる
  • 福田 和也
  • 2021.03.03
日本人は豚になる: 三島由紀夫の予言
日本人は豚になる: 三島由紀夫の予言
  • 適菜 収
  • 2020.11.05