共著のインタビュアー松野大介が考える 三谷幸喜式「好き」を仕事にする方法
監督作品『スオミの話をしよう』が公開されて話題の三谷幸喜さん。その最新映画や大ヒット大河ドラマの脚本などの創作秘話を語った共著『三谷幸喜 創作の謎』(三谷幸喜×松野大介/講談社)が20日に刊行。
三谷幸喜さんと旧知の仲でインタビューを担当した元芸人の作家、松野大介氏が働き世代に向けて《好きなことを仕事にする》視点で、三谷さんから学んだことを中心に2つのキーワードを提示してもらった。
過去の自作を振り返るインタビューをほとんど受けないという三谷さんとホテルのラウンジの個室で行った合計10時間に及ぶインタビューで、私(松野)なりにいろいろと学びました。本来、脚本や演出と一般的なビジネスの形態は違うが、学んだ中から私が感じた「好き」を仕事にする方法をお知らせします。
【1. 準備は「勉強」】
勉強というと日本人は学校でやる科目だったり、イヤイヤやらなきゃいけない面倒なことと考えがちな人もいますが、料理好きがメニューの作り方を本(または動画)で勉強するように、勉強とは本来、好きなこと、興味のあることを学べばいいので、世の中にある物事の数だけあるもの。エステ(専門学校もある)でもゲーム(クリエイターからプレイヤーまで)でもラーメンでも気象衛星でもキルト織りでも物事の数だけ仕事のジャンルがあり、結論から言うと勉強した人ほど上に行く。
三谷さんの映画(またはドラマ)と本の勉強量は相当なものだと感じました。ちなみに小説を書く私も映画は年間70本(ほとんど配信サービス)、アメリカものを中心にドラマは約500エピソード、アニメはギャグもの中心に700エピソード以上(数え切れない)、本は少なくて年間50冊。
三谷さんは(アニメを除けば)もっと観て、読んでいるでしょうし、それが子供の頃からずっと続いている。
その証拠となるかはわからないが、大河ドラマの脚本に触れている箇所を抜粋します。
(第一章『真田丸』から抜粋)
ーー《松野の質問》(14話[大坂])から信繁が大坂へ行き、秀吉が亡くなるまでは(略)大坂城のシチュエーションドラマのようで私は好きです。(略)
三谷 舞台の中心が大阪城に移ってからは、僕のイメージは東宝の「社長シリーズ」なんです。
ーー森繁久彌さん主演のコメディ!
三谷 小日向(※文世/豊臣秀吉役)さんが社長の森繁さん。堺雅人(※真田信繁役)さんが真面目な秘書官。「社長シリーズ」には小林桂樹さんや加東大介さんがいる。城内には石田三成(山本耕史)や大谷刑部(片岡愛之助)ら武将が大勢出入りしていて、社長の秀吉がまとめていく。
(第2章『鎌倉殿の13人』から抜粋)
三谷 『鎌倉殿‥』の世界観は確実にシェイクスピア。影響を受けているというより、そもそもシェイクスピアの描くものと鎌倉時代が似てるんです。『ヘンリアド』(『リチャード二世』『ヘンリー四世第1部』『ヘンリー四世第2部』『リチャード五世』の4作品)と呼ばれる連続史劇もそうだし、『オセロー』も『ハムレット』もそう。(※マークがある箇所は記事のために加筆)
このような物語作りの下地については多くの作品で語られました。もちろん物語は自分の創作ではありますが、物語作りに必要なものの1つは過去に観たり勉強してきた映画やドラマや戯曲。これは他の脚本家や小説家も同じだが、みんな言わないだけです。(映画監督でも「僕は他の人の映画、全然観てないから」とか言う)
つまり、勉強で得た知識が仕事を支えるケースが多いということ。
私は住んでいる沖縄県で小説エッセー教室を主宰していて、地元の文学賞の常連になった生徒もいますが、読書や映画鑑賞をよくしている生徒のほうが能力に関係なくいい作品を書けてます。
それだけ勉強するのは、そのジャンルがどれだけ好きかに関わる。私は「勉強しなくちゃ」とイヤイヤ小説を読んだり無理して『忍者ハットリくん』を観たりしません。ラーメンが好きで好きで食べ続けて作り続けた人がラーメン屋かラーメンに関連した仕事で上へ行くだろうし、これはどんな職業も同じですよね。
「オレは何が好きか?」を問うところから仕事は始まるし、好きなことが遊びや趣味だからといって仕事から外さなくてもいいんじゃないかと思います。バイクが好きならバイクのレーサーにはなれなくてもバイクに付随した仕事はいくらでもあるわけだから。