共著のインタビュアー松野大介が考える 三谷幸喜式「好き」を仕事にする方法
【2. 仕事の進め方は「人の個性を生かす」 】
今となっては有名な話ですが、「三谷幸喜はすべての役に見せ場を作る」とよく言われます。視聴者や観客だけでなく、俳優たちもそう言います。この理由には当て書き(配役が決まってから、その役者に合わせて書く)しか出来ないということがまずあります。
(最終章「この先の三谷幸喜」から抜粋)
三谷 僕の想像力の欠如かもしれないけど、俳優さんの顔が浮かんで、その俳優さんに何を語らせたいかというところからの発想で書いてますから、いつも。
‥‥という方法論に加えて、登場人物に愛情があるんだと私は思います。これも「好き」の話になりますが、大河ドラマなら真田信繁や北条義時が好きなんだと。歴史がそもそも大好きですから、登場する人物ひとりずつを克明に描く。その結果、役者の良さも引き立つ。
さらに役者思いでもあると思います。私見ですが、元々は大学時代から劇団(東京サンシャインボーイズ)をやられてきたからか、たとえば芝居の公演でキャスト全員にチケットノルマが課せられる場合、20枚売らなきゃいけないのにちょっとしか出演しなかったらかわいそうだという思いもあるのではと。でもこれは劇団を主宰した多くの人が抱く心情かもしれません。
8月に文庫化された、11年前刊行の第1弾『三谷幸喜 創作を語る』(講談社)ではこう話されました。初の大河ドラマ執筆の話です。
(『創作を語る』の「新選組!」から抜粋)
三谷 香取慎吾さんが主人公だけど、彼ひとりが主役じゃない。旗揚げメンバーの7人が全員主役。だから(略)毎回7つのストーリーを考えてた。
まずざっとパソコンで打つ。(略)その時は香取さんが演じる近藤勇目線なんですよね。 次に、土方歳三の気持ちで考える時に、まず、演じる山本耕史の気持ちになって読む。『シーン5から10の間、俺、出てきてねえぞ』と山本さんが思ったとしたら、『じゃ、この間、土方は何をしてるんだろう』と考える。(略)じゃあ間に1回くらい出しておこうかと、蕎麦屋に行ってたように書き加えて、それによって話が転がることもある。蕎麦屋で誰かに会ってるとか。次はぐっさん(山口智充)演じる永倉新八の気持ちになって同じように書く。
‥‥と、三谷さんは登場人物と役者の二通りで、7人分の脚本を書くようにし、それを合わせて1話を完成させる。大変な手間です。物語の濃度を上げる脚本家の気持ちと、役者思いという劇団の座長的な気持ちを合わせている。そしてこの方法が三谷さん自身の個性的を生かす仕事になり得る。
仮に会社で、7人の社員の個性を生かし、出番が少ない人にも仕事を回すリーダーがいたら、尊敬されるだろうし職場はうまく回るでしょう。しかし、これは人のためでありながら、結局は仕事の出来として自分に返ってくること。