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つるみたくない秋【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第29回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第29回


森羅万象をよく観察し、深く思考する。新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白くなる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎BEST TIMES連載(2022.4〜2023.9)森博嗣『静かに生きて考える』が書籍化(未公開原稿含む)。絶賛発売中。


 

 

第29回 つるみたくない秋

 

【グループへの抵抗感】

 

 前回の「同じ」に近い話題かもしれない。これまでの人生を振り返ってみると、どうやら僕は長く同じグループに留まれない人間らしい、と観察できる。自分では、特に意識していない。グループを作ることも、グループに入ることも、毛嫌いしているわけではない。だが、少し離れて見ると、どこかの集団に積極的に加わろうとしないし、また加わった場合でも長続きしない。

 子供の頃には、たとえば学校のクラスのような集団があって、自分の意思とは関係なく、その一員にさせられた。自主的に入会できる部活などでも、だいたい僕は、一年したら別の部に移るようにしていた。なにか不満があったのではなく、喧嘩をするようなこともなかった。ただなんとなく、自分はこの集団に馴染まない、と感じてしまうのだった。

 子供の頃から模型が大好きだったけれど、一度も模型のクラブに所属した経験がない。漫画のサークルに所属したことはあったが、これは友達に誘われたから入っただけだ。サークル活動にも、それほど熱心ではなかったように思う。

 大人になってからは、仕事以外でグループに所属したことは一度もない。町内会とかPTAなどは、むしろ反発していた。なくても良いグループだ、と認識していた。同窓会にも違和感を抱いていたし、仕事仲間で集まる趣味のグループにも所属したことがない。当然ながら、ネットでも集団の一員にはなりたくない、といつも感じている。はっきりいうと「つるむ」ことが嫌いなのだろう。

 作家になってからも、誰ともつるんでいない。推理作家協会への入会を誘われ、しばらくは在籍したものの、数年後に脱会した。理由として、「作家を辞めるつもりだから」と答えた。

 いずれの場合も、そのグループに不満があったわけでは全然ない。会費がもったいないとか、役員をさせられそうで困るとか、そんな理由でもない。そうではなく、このままこの枠内に収まり続けることを保証できない、といった感じだろうか。

 グループには、なんらかの「共通事項」がある。つまり「同じ」もの、共有しているものがある。僕が、グループに対して常に感じるのは、「僕は同じではない」という違和感なのだ。だから、入りづらいし、長続きしない。

 たとえば、鉄道模型のグループに所属したとしよう。きっと、仲間と懇意になり、その人たちを意識し、鉄道模型の趣味から外れた活動を自分で制限してしまうだろう。それが嫌なのだ。好きなものであっても、すぐに別のものへ目を向け、そちらにも傾倒したい。気まぐれで、飽きっぽく、常になににでも手を出したい、新しいものをすぐにでも始めたい、という人間だった。なにかに没頭するほど、それから離れたくなる傾向も認められる。本格ミステリィを幾つか書いたら、もうそのジャンルからは離れたくなる、みたいな感じか。

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 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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