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無関係なことを考えてみよう【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第30回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第30回


森羅万象をよく観察し、深く思考する。新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白くなる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」がついに単行本化され発売に! 総頁数:344頁。未公開の書き下ろし原稿(第36〜40回)も収録。視点が変わると、人生も変わる!あなたにとって大切な一冊になるとお約束します!


 

 

第30回 無関係なことを考えてみよう

 

【アイデアを思いつける人】

 

 クリエイティブな作業において欠かせないもの、それが「発想」だ。日本では、これを「アイデア」といったりする。知識や計算によって生まれるものではなく、どこからともなく、ふっと現れる。突飛なだけではなく、問題をスマートに解決したり、これまでになかった新しさをもたらしたりする。

 誰でも思いつけるものではない。発想ができる人がたしかに存在し、しかも、そういう人はいつも新しい発想を持っている。いったい、どんなふうに考えているのだろうか、と不思議でしかたがない。どう考えたら良いのか、どんな訓練をしたら良いのか?

 頭の転換、水平思考、逆転の発想、などいろいろな言葉で飾られるし、また、これに関する本が数多く出版されている。多くの人が関心を持っているのだろう。だが、読んでみると、過去にあった発想の例が紹介されているだけで、それを再現する方法は示されていない。発想法は、学校でも習うことができない。つまり、どうやったら価値ある発想が生み出せるのか、という具体的な手法が存在しない、ということはどうやら確からしい。

 たとえば、数学のテストで良い点を取る人は、なんらかの発想ができる、と一般に理解されている。なにかを思いつかないと解答に辿り着けない。そういう問題が出る。しかし、数学以外のテストでは、その種の出題はほぼない。それは、知識を問うような問題だからである。もう少し簡単にいうと、数学では知っているかどうかではなく、思いつけるかどうか、が問われている。ただし、計算問題にはこのような発想が必要ない。

 ものを作るとき、材料や工具、図面や工法があれば、あとは作業をするだけだ。もちろん、経験や知識が必要だが、そういったものは学ぶことができる。一方、芸術作品を作りなさい、といわれたときには、まず何を使うのか、どのように製作するのか、といった発想が必要になる。なんでも良いのだから、誰にでもなにかは作れるだろうが、しかし、他者が認めるような価値を生み出すことは、かなり難しい。そこに欠けているものは、経験や知識だろうか?

 もちろん、それらも必要だ。そういったことは、趣味の教室や芸術大学などで学ぶことができるし、過去の作品を多く知ることで、ある程度は身につけることができるだろう。しかし、それでも、新しいものを創作するには、オリジナリティが必要となり、そこには、やはり発想がなければならない。なにかを思いつく必要がある。さて、あなたは、思いつけるだろうか?

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「無事」を重ねることが、人生の成功である。少し気をつけていれば、誰でもできる。ときどき予期せぬ不運が襲ってきても、また少しずつ無事を重ねて挽回していけば良い。勝たなくても良い。負けても良い。またの機会を待てることこそが、成功の価値なのである。(第35回「充実した人生に唯一必要なもの」より抜粋)

 

◉人生はプログラミング◉水を差しにくい社会◉話し上手と書き上手

◉老人になっても社会人である◉余計なものを持つことの価値

◉気持ちという質量◉「潔癖社会」純度上昇中◉ジェネラリストは存在しない?

◉どうなれば成功なのか?◉適度な自己中のすすめ◉アイデアを思いつける人

◉思いつきの手法◉新しい価値は無駄から生まれる◉頭は知識で肥満になる

◉楽しければそれで良いのか?◉効率か快適か、それが問題だ

◉自己利益が最重要な方針◉作るために必要なこと

◉一人でいることは、自由の象徴◉充実した人生に唯一必要なもの

◉AIが活躍する未来って?◉的確な質問をする能力

◉ネットのモラルはこれから◉フィクションを楽しむ条件

◉いつ死んでも良い生き方とは etc.

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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