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無関係なことを考えてみよう【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第30回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第30回


森羅万象をよく観察し、深く思考する。新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白くなる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎BEST TIMES連載(2022.4〜2023.9)森博嗣『静かに生きて考える』が書籍化(未公開原稿含む)。絶賛発売中。


 

 

第30回 無関係なことを考えてみよう

 

【アイデアを思いつける人】

 

 クリエイティブな作業において欠かせないもの、それが「発想」だ。日本では、これを「アイデア」といったりする。知識や計算によって生まれるものではなく、どこからともなく、ふっと現れる。突飛なだけではなく、問題をスマートに解決したり、これまでになかった新しさをもたらしたりする。

 誰でも思いつけるものではない。発想ができる人がたしかに存在し、しかも、そういう人はいつも新しい発想を持っている。いったい、どんなふうに考えているのだろうか、と不思議でしかたがない。どう考えたら良いのか、どんな訓練をしたら良いのか?

 頭の転換、水平思考、逆転の発想、などいろいろな言葉で飾られるし、また、これに関する本が数多く出版されている。多くの人が関心を持っているのだろう。だが、読んでみると、過去にあった発想の例が紹介されているだけで、それを再現する方法は示されていない。発想法は、学校でも習うことができない。つまり、どうやったら価値ある発想が生み出せるのか、という具体的な手法が存在しない、ということはどうやら確からしい。

 たとえば、数学のテストで良い点を取る人は、なんらかの発想ができる、と一般に理解されている。なにかを思いつかないと解答に辿り着けない。そういう問題が出る。しかし、数学以外のテストでは、その種の出題はほぼない。それは、知識を問うような問題だからである。もう少し簡単にいうと、数学では知っているかどうかではなく、思いつけるかどうか、が問われている。ただし、計算問題にはこのような発想が必要ない。

 ものを作るとき、材料や工具、図面や工法があれば、あとは作業をするだけだ。もちろん、経験や知識が必要だが、そういったものは学ぶことができる。一方、芸術作品を作りなさい、といわれたときには、まず何を使うのか、どのように製作するのか、といった発想が必要になる。なんでも良いのだから、誰にでもなにかは作れるだろうが、しかし、他者が認めるような価値を生み出すことは、かなり難しい。そこに欠けているものは、経験や知識だろうか?

 もちろん、それらも必要だ。そういったことは、趣味の教室や芸術大学などで学ぶことができるし、過去の作品を多く知ることで、ある程度は身につけることができるだろう。しかし、それでも、新しいものを創作するには、オリジナリティが必要となり、そこには、やはり発想がなければならない。なにかを思いつく必要がある。さて、あなたは、思いつけるだろうか?

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森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。

 

 

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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