Kの琴線に触れた京版画・摺師の決意「伝統は守るのではなく、継承することが大事」
第2回 京版画(京都府京都市)竹笹堂 5代目竹中健司さん
韓国・ソウルから来日し、デビューしてから10年あまり。日本に暮らし、日本語で歌うシンガーソングライターのKさんが、日本のモノづくり、伝統工芸の現場を旅する連載。第2回は、浮世絵など世界的なアート作品を生み続けている京版画の今に迫ります。
日本人の生活を1200年間彩る木版印刷「京版画」
木版印刷の技術は、飛鳥時代、中国大陸から伝わったと言われる。仏教を伝えるために僧侶が始めた木版印刷だったが、江戸時代になると、大衆文化が目覚ましく発展するのに合わせて、大量の木版印刷物が世の中に流通するようになった。代表的な木版画と言えば江戸浮世絵だが、木版印刷物全般の多くを制作していたのは京都だった。
木版画の制作は3者分業で行われる。絵を描く絵師、木版を作る彫師、そしてその木版に色を乗せ、紙に摺るのが、摺師(すりし)の仕事。
版木は基本的に1色1枚制作され、凸部分に色を乗せ馬連(ばれん)で摺る。“見当”と呼ばれる印を合わせていく。何層も重ね摺りした結果、出来上がりの表面が凸凹しているのも木版画の特長。摺師は、紙の絵具ののり具合、厚さなどを想定し、絵具を調合する役割もある。
「浮世絵は持つとき手に絵の具がつかないように、しっかりと裏まで押し込んで摺り上げられているため、絵具による凹凸はないんです」
そう話すのは、京都にある竹笹堂5代目摺師・竹中健司氏。紙にとどまらず様々な素材に木版画を施し、木版画を原画にバック、スマホケースなども制作。木版の魅力を現代の生活に伝える活動も行っている。
「木版画というのは、印刷技術の原点です。もともとは仏教の教えを多くの人たちに広げるために、書物などを布教に使っていたのですが、手書きで書いていたのでは手間も時間もかかる。そこで木版画印刷により、たくさん生産し配ったんです。今でもお坊さんの修行のひとつとして木版印刷が残っています。江戸時代には、書物や浮世絵だけでなく、お菓子の包み紙や扇子、団扇などにも『真っ白じゃ面白くないやろ』と木版印刷でさまざまモチーフや風景などが描かれ、生活を彩る役割も担っていました。そして、それは現代でも同じ。僕がいろいろな生活雑貨などを作っているのも、新商品開発というよりも、『これ面白いんちゃうか?』と思いついたものをどんどん形にしているんです」
機械印刷、デジタル化が進んだ今こそ、木版、しかも手摺りだからこそ生まれる個性が、大きな魅力となっている。