“本を書けない著者”を救う「ブックライター」という仕事。「ゴーストライター」批判はお門違いだ!【加藤純平】
■ブックライター=バーテンダー説
多忙な著者に代わって、本の文章を書く。それがブックライターの仕事だ。
ただし、代わりに書くといっても、著者が言ってもいないことを「0→1」で創作することはない。
ブックライターの役割は、「バーテンダー」と例えるとわかりやすいかもしれない。
「寿司屋の修行に10年も費やすのはバカ!」
「マイホームなんて買うな!人生の足かせになる」
「手数料が5%を超える金融商品はゴミだ」
私がブックライティングを担当した本の見出しには、強烈なメッセージがたびたび登場する。
こういった主張を聞いて、
「あー、わかる!たしかに今の時代、10年も修行するのはもったいないよね」
「言われてみれば、マイホームを買ってから人生の選択肢が狭まったかも……」
と受け入れられる人は少数派。ほどんどの方は、モヤッとしたり、あるいはイラッとしてしまっただろう。
どれもエッジが効きまくり、聞く人を激しく選ぶ。
例えるなら、アルコール度数の高いお酒のようなものだ。ホリエモンが代表的なように、ビジネス本の著者になるような人は、こういった尖ったメッセージを発することが多い。むしろ、尖ったメッセージだからこそ共感や議論を呼ぶ。しかし、こういったメッセージをストレートで“味わえる”のは限られた強者だけだろう。
では、この“度数の高いお酒”を多くの人に楽しんでもらうにはどうすればいいか。答えはシンプルで、適度に割って飲みやすくすることだ。
それを日々行っているのがバーテンダーである。
度数の高いお酒にジュースやソーダを加え、風味や個性を引き立たせながら、お客さんが心地よく楽しめるカクテルやサワーに仕上げる。「甘くて口当たりのいいカクテルが飲みたい」「さっぱりとした爽やかな味がいい」といった、お客さんそれぞれのリクエストに応じて、味わいやバランスを調整する。
バーテンダーの腕前は、お酒のもつ本来の個性を損なわずに飲みやすさを引き出すところにある。
では、ブックライターの場合はどうだろうか。
エッジの効いたメッセージや専門的な主張を、噛み砕いた表現や補足説明を加え、より伝わりやすい形に整える。
「どんな人がターゲットか」「どんな表現なら理解してもらいやすいか」を想定し、読者の視点に立って文章を仕上げる。
著者の意図や主張をそのまま残しつつ、読者に心地よく届くよう、絶妙なバランスを保つのがブックライターの腕の見せどころである。
度数の高いお酒をジュースやソーダで割って飲みやすくするように、エッジの効いたメッセージを噛み砕いて、抵抗なく受け入れられるようにする。この作業こそブックライターが日頃やっている「文章化」だ。
決して、著者が考えてもいないことをでっち上げたり、読者を騙そうとしているわけではない。
そんな役割を「裏で暗躍するゴーストライター」と批判するのは、少々買いかぶりすぎというものだ。