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『滅亡と絶望』、またはプーチンの超時空戦争【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」51

プーチン

 

◆うその中にほんとをさがせ

 【うそはほんとによく似てる ほんとはうそによく似てる うそとほんとは双生児】

 

 谷川俊太郎さんの詩「うそとほんと」は、そんな言葉で始まります。

 そして詩の結びはこちら。

 

 【うその中にうそを探すな ほんとの中にうそを探せ ほんとの中にほんとを探すな うその中にほんとを探せ】

 

 世の真実はしばしば、現実と虚構が交錯する中にあるのだから、「これは現実(ほんと)」「これは虚構(うそ)」と、決めてかからないほうがいいという話。

 偉大な能役者・世阿弥(ぜあみ)の表現にならえば、「虚実皮膜(きょじつひまく)」であります。

 

 しかるにお立ち会い。

 「2024年、世界は収拾がつかなくなっている」(令和の真相50)でも述べたように、現在の世界では物事が「何でもあり」になりつつある。

 「ほんとの中にうそを探せ」と谷川さんは言いますが、わざわざ探すまでもなく、「ほんと」自体が「うそだらけ」と化しているのです。

 

 となると「うその中にほんとを探す」ほうが、しばしば「ほんと」を知る近道になる。

 明らかな虚構、つまりフィクションに目を向け、その中から現実をめぐる洞察を抽出するのです。

 そのような虚構の好例として取り上げたいのが、ロシアのインディ系(自主製作)SFホラー映画『滅亡と絶望』。

 202110月、ウクライナ戦争が始まる直前に完成した作品です。

 

アレックス・ウェスリー監督『滅亡と絶望』DVD

 

 監督のアレックス・ウェスリーは2000年代初めより、短編を中心に多数の自主製作ホラーを撮ってきた人物。

 本名は「アレクサンドル・シャログラゾフ(Alexander Sharoglazov)」というのですが、アメリカのインディ系監督「ウィリアム・ウェスリー」へのリスペクトとして、こう名乗っているのだそうです。

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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