楽しければそれで良いのか?【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第32回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

楽しければそれで良いのか?【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第32回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第32回

 

【ブロアカーと除雪車】

 

 落葉掃除も大変ではあるけれど、毎日欠かさず庭園鉄道は運行している。線路の上に落葉が降り積もっているので、それを排除するために専用の車両がある。先端から空気を噴き出すブロアカーだ。これまで様々な改造が行われた。最初はハイブリッド(エンジン発電機とモータブロア)、次は軽量化を優先してエンジンブロアに、そして今年はバッテリィのモータブロアへと進化した。外見はラッセル車に似せて、ベニヤとボール紙で作られている。このブロアカーを先頭に機関車で押して走り、庭を一周すれば、そのあとは普通の列車が走ることができる。

 落葉だけではなく、積雪に備えた除雪車も何台か作った。当地では雪は滅多に降らない(ひと冬に2、3日程度だ)が、これまでの最高積雪は1mほどで、このときは、全線が開通するのに1週間かかった。両側に雪の壁がある溝の中を、運転して走ったが、この体験はなかなかのものだった。自動車をガレージから出すことができず、買い物にも困っていたのに、庭園鉄道を優先して除雪作業をしたのだから、楽しければ良い、気持ち良ければそれで良い、という生き方を僕自身もしていることは否定できない。

 

線路上の落葉を吹き飛ばすブロアカーとそれを押すための機関車。人間(僕)は、機関車の右後ろの貨車に乗って運転する。一年のどの季節も、毎日運行している。今となっては、これが仕事か。

 

文:森博嗣

KEYWORDS:

 

✴︎森博嗣 極上エッセィ好評既刊✴︎

静かに生きて考える   Thinking in Calm Life

✴︎絶賛発売中✴︎

 

 

森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。

 

 

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

オススメ記事

森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

つむじ風のスープ The cream of the notes 13 (講談社文庫 も 28-87)
つむじ風のスープ The cream of the notes 13 (講談社文庫 も 28-87)
  • 森 博嗣
  • 2024.12.13
静かに生きて考える
静かに生きて考える
  • 森博嗣
  • 2024.01.17
道なき未知 (ワニ文庫)
道なき未知 (ワニ文庫)
  • 博嗣, 森
  • 2019.04.22