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【11.17引退】“三沢光晴最後の対戦相手”という過酷な運命を背負った男・齋藤彰俊が「生」を語る

■15年間背負い続けた「三沢光晴最後の対戦相手」

▲三沢の死後、自身も思い悩んだ

 2009年6月13日は、齋藤にとって忘れられない日だ。そのNOAHの象徴である三沢が試合中の事故で亡くなった。齋藤は最後の対戦相手だった。試合中に齋藤のバックドロップを受けた三沢は、そのまま動けなくなり、搬送された病院で息を引き取った。「頸髄離断」だった。

 齋藤は、自分を責めた。三沢が眠る病室で朝まで過ごしながら、「自ら命を絶つしかない」とまで思いつめた。しかし、三沢が亡くなった悲しみ、つらさ、怒りをファンはどこにぶつけたらいいのだろう。そう考えた齋藤は「自分が受け止めるしかない」と決意した。

 齋藤の決意を後押ししたのは事故から2ヶ月後に届いた“三沢からの手紙”であった。手紙の送り主は三沢の親友。三沢の友人は、三沢の生前に「もしも自分がリングの上で事故にあったら、その時の対戦相手に伝えてほしい」とメッセージを託されていたのだ。

「一言一句間違えないように、とよく思い出しながら書いたので、時間がかかってしまいました」とメモ書きが添えていた。

 手紙には「重荷を背負わせて、本当にごめん」と事故を予見していたような文が書いてあったという。そして「プロレスを続けてほしい。つらいかもしれないが、絶対に続けてほしい」と綴られていた。

「その手紙をもらったときは、辞めようという気持ちはなかったんですけど、読んだ後に『どう答えをだすのか』というのが15年くらいかかったかなという感じです」す。

 事故後、齋藤の元に、三沢のファンから「お前が三沢を殺した」「三沢を返せ」といった言葉や、匿名を名乗る人から誹謗中傷を受けた。齋藤は逃げることなく、『申し訳ございません』と謝罪をし、『今、自分の中で誓ったこと、やり残したことがあるのでもう少しリングに上がらせてください』と返事をしているそうだ。 

「自分は、三沢さんが亡くなったことへの批判はすべて受け止めますと宣言しているので、直接届いたものに関しては『三沢さんのファンではないな』と思う方へも返信しています。それは自分で約束したことなので嘘をつきたくないからです。自分の生き方には正直でいたいのでやらせてもらっています」

 常人にはマネできない。三沢が亡くなったのは事故であり、齋藤一人が責任を背負うことではないと筆者は感じている。齋藤を非難しても三沢は帰ってこないのだ。それでも齋藤は、相手から送られた言葉を受け止めて手紙を返し続けている。

 自分のバックドロップによって三沢が亡くなった。その現実は変えられないと考え、自分が亡くなって天に行くまでそれを受け止める覚悟だ。「プロレスを引退してもこれは変わりません」と齋藤は言う。

 最近、齋藤は亡き三沢の存在を感じるような不思議な体験をしたという。

「今年の3月に初めてシングルのベルトを巻いたんです。会場が靖国神社だったんですけど、リングに上ったら突然風がピュッと吹いたんです。後から思えば三沢さんが後押ししてくれたのかなって思います」

 齋藤はレスラー生活33年目。タイトルを奪取した日は3月31日。世界ヘビー級第33代チャンピオン。すべて三沢の「三」が揃っている。こじつけかもしれないが、何かの力が働いたのかもしれない。

 その齋藤に、生前三沢と飲みに行った時の思い出を聞いてみた。

「三沢さんは人に、『ああしろ、こうしろ』とは言わない人でした。だからといって職人気質に『俺の背中を見ろ』という人でもなかったです。とにかく佇まいが自然なんです。その姿を見て勉強させてもらう感じです。後は自分が緑のコスチュームにしたのはあるお坊さんから『緑は守護色としていいぞ』と言われたかららしく、そんなことを話してくれたのも記憶に残っています」

 三沢との思い出を語る齋藤は嬉しそうに見えた。

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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