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【11.17引退】“三沢光晴最後の対戦相手”という過酷な運命を背負った男・齋藤彰俊が「生」を語る

■タイトルマッチ後に突然引退発表をした真意とは

 2024年11月17日にプロレスラー・齋藤彰俊は最後の日を迎える。今年7月13日の日本武道館大会で潮崎豪(※9)に敗れると、引退を決断した。世界ヘビー級選手権3回目の防衛戦であった。

「試合が終わった後、やりきったのかなっていうか、約束守れたのかなとか思いました。三沢さんからの手紙に『糧にしてほしい』と書いてあったのですが、言葉って難しいですよね。『糧にしろ』というのは、このことを自分にプラスにしていくっていう感じだと思うんですけど、自分の中ではちょっと違っていて、何かを苦しみながら、悩みながら何かを掴んでいくことかなと。

それで自分なりに答えが見つかったから、(プロレスから)卒業するときが来たのだと思ったので決めました。でも正解かどうかはわかりません。自分が天に召されて三沢社長にお会いしたときに『お前正解だよ』と言われたら、その通りだと思っています。

ただ、『糧にしてほしい』という言葉は年々捉え方が変わってきています。言葉は一つなんだけれども、自分で考え続けていって『起承転結』の『結』の部分にきた。それで『引退しよう』と瞬間的に決めたんです。

これも後付けですけど、振り返ってみると自分の発言とか行動を見ると辻褄が合うんです」

 引退会見でも、あの日同じリングに立っていた潮崎豪と日本武道館でタイトルマッチができたこと。そんな素晴らしい舞台で「伝えるべきことを伝えられた」と語った齋藤。

 引退が決まった後にも気にかけていたのはNOAHの仲間のことだった。引退会見でも仲間へのメッセージを熱く語っていたし、齋藤のXからもその心意気が感じられる。齋藤はよく「#伝えなければならない事」「 #やらなければならない事」というハッシュタグをつけてポストする。それは彼が、同じユニットである「TEAM NOAH」のメンバーやNOAHのプロレスラーに、あの地で心に誓ったこと、約束したことを自分なりに伝えてきたことである。

※9:プロレスリング・ノア所属のプロレスラー。ノアのエースとして期待され、GHCヘビー・GHCタッグ・三冠ヘビー級・世界タッグ・世界ヘビーと様々なベルトを戴冠。

■「生をまっとうしてほしい」つらい時代を生きる人に伝えたいこと

 リング上で急逝した「三沢光晴最後の対戦相手」という過酷な運命を背負ってきた齋藤。「自分がすべてを受け止める」と決意して、心無い誹謗中傷にも耐えてきた。「死神」という有り難くない異名をつけられたこともある。

 引退試合の大会タイトルは『Deathtiny』。「死(神)」と「運命」をかけ合わせた造語だ。「死神の宿命、死神の運命っていう感じで自分が進むべきこと、やるべきこと、という意味を込めています」と齋藤は説明する。壮絶な体験をしながらも、プロレスのリングに立ち続けた齋藤に氷河期世代へメッセージをお願いしてみると、「ああいう事故を起こしてしまった自分が言うと、どこまで説得力があるかわからないんですけど…」と前置きしてこう語ってくれた。

「人生にはいろんなことがあります。例えば車でも、いきなり自分のお子さんをとか、出会い頭でとか、思ってもない事故が起こることもある。本当にどんなことが起きるかわからない。『生きる』という部分では、どんなに生きたくても心臓が止まってしまう人がいる。反対に嫌なことや、つらいことに死にたいと思っていても心臓は動いている。とにかく人生は1回なんだよって伝えたい。その中で『自分に何ができるか』じゃなく、『自分が何をやりたいか』を一番に考えてもらいたいなとは思ってます。

今はSNSで誹謗中傷されたりなどで、つらい人もいるでしょう。でも、自分が話を聞くことでそういう方のつらさが解消されるなら聞いてあげたい。つらい人のプラスになることをする、これも自分の宿命、運命だと思っています。皆さんには『生をまっとうしてほしい』です。これが伝えたいことです」

 齋藤彰俊は、最後の最後まで「伝えなければならない事」「 やらなければならない事」を伝え抜くだろう。その言葉を我々が受け止めて、行動していくことが次の「運命」を決めるのかもしれない。

▲「生をまっとうしてほしい」とメッセージを送る

取材・文:篁五郎

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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