イチローが高校球児を〝後押し〟した言葉。生徒は自分自身を「ちゃんと生きる」ために学ぶ【西岡正樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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イチローが高校球児を〝後押し〟した言葉。生徒は自分自身を「ちゃんと生きる」ために学ぶ【西岡正樹】

2024年11月10日、大冠高野球部の生徒たちを指導するイチロー(大阪府高槻市)

  

◾️支援級の授業でのある出来事

 

 昨年に元大リーガーのイチロー選手が智辯和歌山の高校生を指導した時のこと、帰り際にイチロー選手が高校生に向かって「ちゃんとやってね」と伝えている様子が、テレビに流れていました。その頃、私も公立小学校において、「ちゃんと」という言葉を使って子どもたちを指導していたので、その時のイチロー選手と高校生のやり取りが、私の脳裏から離れずにずっと残っていました。

 あれから随分と時間は経ちましたが、9月から茅ケ崎市内の小学校に再び勤務することになったことを期に、その「ちゃんと」という言葉を私がどのように捉えているのかを、今あらためて考え、整理してみることにしました。

 私は、この20年間、事あるごとに、「ちゃんと見て」「ちゃんと聴いて」「ちゃんと読んで」と教室の子どもたちに伝え続けてきました。また、その度に「ちゃんとやることで、みんなは何かを感じることができるだろう」ということを、子どもたちに意識させていました。ちょっとイメージしにくいかもしれませんが、私がそうやってきたのは、「自分の中に何かが取り込まれると間違いなく人の心は動く」という思いがあるからなのです。

 

 つい最近、ある支援級の授業を観ている時に、私の心が大きく揺り動かされることがありました。

 自分たちで作ったサツマイモが給食に使われるので、「学校のみんなにサツマイモをおいしく食べてください」というお知らせ文を、支援級の子どもたちで考えるという授業でした。ダウン症の徹君(仮名)もその授業に参加しています。

 徹君はうまく発語ができません。発せられた言葉も不確かで聞き取り難い。それでも単語ならばなんとか聞き取ることができる言葉がいくつかあります。

 半面、徹君の日常生活を見ていると、聴く力は話す力以上にあるのだなということが態度や様子から分かります。

 そうだとしても、徹君がこの授業に関わる難しさは、支援級に関わっていない教師であっても分かるでしょう。そこで一計を講じた支援級の教師たちは、徹君がこの授業に関われるように徹君にある役割を担ってもらうことにしたのです。司会をする子どもの役割の1つ、「手を挙げた子どもの中から一人を指名する」ということを、徹君に担ってもらったのです。(当然教師のサポートの元)

 役割を担っているからといって、それだけで徹君がこの授業にスムーズに入れるわけではありません。誰もが想像できることですが、半分以上理解できない言葉が行き交う中にいて、45分間集中できる人がどれだけいるでしょうか。それでも、話されている内容のわずかなことでも徹君が吸収してくれればそれでいいのではないかと思いながら、教師たちも徹君に役割を担わせたのだと思います。

 ところが、徹君は教師の予想以上に授業に向かっていたのではないかという出来事が、私の目の前で起きたのです。それは授業の半ばでのこと。

 冴子さん(仮名)が、

 「みんなにおいしい気持ちで食べてほしい」

 と発言した直後です。徹君は徐に席を離れドアへ向かいました。「おやっ」誰もが首を傾げたその時、徹君はドアの直前で止まり、日程表の「給食」のところを指さして笑ったのです。その瞬間「徹は話を聴いていたんだ」という言葉が、私の心の中で揺れ動いていました。

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西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

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