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「事実無根の捏造記事」で文藝春秋に名誉毀損訴訟で勝った私からの警告【浅野健一】

『ありがとう、松ちゃん』より #前編

■報道被害と報道加害の両方を弁護する喜田村洋一弁護士

 松本氏の代理人の田代弁護士と文春側代理人で「文春の守護神」「名誉毀損のエキスパート」とされる喜田村弁護士は小沢一郎衆院議員(当時、民主党代表)の資金管理団体を巡る「陸山会事件」で浅からぬ因縁がある。当時、喜田村氏が小沢氏の代理人、田代氏が特捜検事として法廷に立った。12年に小沢氏に無罪判決が言い渡されているが、田代検事は被疑者だった石川知裕秘書の捜査報告書に虚偽の記載をしたとして、法相からは、減給6ヶ月、100分の20の懲戒処分を受け、検察官を辞職した。

 文春顧問の喜田村弁護士は、私が原告になった文春裁判でも、被告・文春などの代理人となり、渡辺氏が改ざんした疑いが濃厚と判示された電子メールなどを裁判所に出すなどの失態があった。

 喜田村氏はリベラルな公益社団法人・自由人権協会の代表理事でもある。元雑貨輸入販売会社社長・三浦和義氏(2008年死去)が無罪判決を受けたロス銃撃事件で弁護団長を務めた弘中惇一郎弁護士と共に、弁護団の中心にいた。私が1994年に山際永三・「人権と報道・連絡会」事務局長(映画監督)らと参加したロサンゼルス現地での調査では、喜田村氏と1週間一緒だった。喜田村氏は現在、文春の他、読売新聞、NHK、講談社、中日新聞など企業メディアの代理人を務めている。元日産自動車取締役グレゴリー・ケリー被告の弁護人も務めた。

「ザ・ドリフターズ」で活躍した故・仲本工事氏(22年10月に交通事故で死亡)の妻で歌手の三代純歌氏が今年2月27日、「週刊新潮」「女性自身」「週刊女性」の記事で名誉を毀損されたとして、発行元の3社に計8250万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。その三代氏の代理人が喜田村氏だ。ここでは報道被害者に寄り添っている。

 喜田村氏には、『報道被害者と報道の自由』(白水社、1999年)という著書もある。

 かつて同じ事務所にいた弘中氏は「喜田村さんはメディア訴訟で報道加害の新聞社・テレビ局・出版社の代理人を引き受け、同時に、報道被害者の代理人も務めているが、私にはそういう器用なことはできない。どちらかに徹するべきではないか」と指摘している。

 喜田村氏は2009年2月17日の朝日新聞朝刊 第3社会面に掲載された〈(MediaTimes)名誉毀損、新潮社長に賠償判決 直接関与なくても責任〉という見出しの記事で、真実ではない内容の週刊誌報道で名誉を傷つけられた場合、発行元の社長個人も賠償責任を負うべきだとした東京地裁(同2月4日)についてコメントしている。

 問題となったのは、「週刊新潮」が2005年に5回にわたって掲載した、貴乃花親方夫妻をめぐる報道。夫妻側は虚偽の報道で社会的評価を低下させられたとして、約3750万円の損害賠償を求め、判決は、貴乃花親方が二子山部屋の継承をめぐって遺産を独占しようとした、などと指摘した内容がいずれも真実ではないと認め、375万円の支払いと謝罪広告の掲載を、新潮社側に命じた。

 朝日新聞記事の中に喜田村氏のコメントがある。

〈一方、名誉毀損訴訟に詳しい喜田村洋一弁護士は「裏付けのない報道を繰り返した悪質さから、社長に対する責任も認めたのではないか。正確な報道を心がけていれば、判決が直ちにメディアの萎縮効果を生む、ということにはならないと思う」と話す。

 出版社は判決に反発する。文藝春秋社は「編集という報道機関の特性を理解していないものだ」とコメントした。同社も編集権の独立が前提だが、週刊誌については仮目次の段階で担当常務や役員、社長室長らがチェックし、必要に応じて原稿執筆段階でも弁護士に相談しているという〉

 喜田村氏は今回、文春の顧問弁護士として、松本氏の疑惑記事にGOサインを出したと思われる。喜田村氏は法律家として、「裏付けのない報道ではないか」「正確な報道を心がけているか」を精査したのだろうか。

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浅野 健一

あさの けんいち

ジャーナリスト

1948年香川県高松市生まれ。慶大経卒、1972年に共同通信社入社。
1984年に『犯罪報道の犯罪』を出版。1994年から2014年まで、同志社大学大学院メディア学専攻教授。『客観報道』『安倍政権・言論弾圧の犯罪』など著書多数。2020年、下咽頭がんで声帯を失うが、AI音声などを使って講演を再開。「紙の爆弾」「進歩と改革」に寄稿、朝鮮新報、救援、たん
ぽぽ舎メルマガで連載中。

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