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「事実無根の捏造記事」で文藝春秋に名誉毀損訴訟で勝った私からの警告《前編》【浅野健一】

『ありがとう、松ちゃん』より #前編

■私も「週刊文春」捏造記事被害を受けた

 今は普通に使われている「報道被害」は私が最初に使った用語だ。1984年に共同通信記者としてメディアの人権侵害を告発する『犯罪報道の犯罪』(学陽書房)で使った時、朝日新聞はコラムで「マスコミを加害者呼ばわりするのか」と非難した。

 私は、マスメディアによる人権侵害を調査研究している中で、週刊誌ジャーナリズムについて、強い問題意識を持ってきた。特に「週刊文春」と「週刊新潮」は、公人の疑惑、疑獄に切り込む一方で、匿名あるいは紛争の一方当事者の主張のみにもとづいて、強引なストーリーを創り出し、冤罪やスキャンダルによる被害を作り上げてきた。

 文春の報道加害の典型が、「情報の銃弾」を浴び続けた三浦和義氏の「ロス銃撃事件」報道だ。三浦氏の無罪判決が確定しているが、これによる報道被害も、1984年1月、「週刊文春」が「疑惑の銃弾」の連載を始め、保険金殺人という疑惑をかけられたことに端を発したものだった。そして、報道各社の社会部記者は、「文春」が創ったストーリーを自ら確認せず、無責任で無定見な報道が重なり合って犯人視報道が展開され、深刻な冤罪(2003年に三浦氏の無罪確定)が発生する原因となった。これは、私人へのリンチであり、調査報道とは無縁なものであったと言わざるを得ない。

▲文春の「銃弾」を浴びた三浦和義氏 写真:アフロ

 また、私自身も前述のように、文春による深刻な被害を被った。全国紙などに載った同誌の新聞広告の見出しに私の実名が入った。文春記事は、同志社大学大学院社会学研究科メディア学専攻の渡辺教授の指導を受けていた中谷聡、三井愛子両氏(申立当時は大学院博士後期課程学生)の大学のハラスメント委員会へのウソの被害申立てにより、同委員会が審理中の事案について、渡辺グループ(大阪高裁判決は2004年結成と認定)への取材だけで書いていた。渡辺氏は、「浅野教授のセクハラを大学当局が認定」という虚偽情報を文春に垂れ込んだ。

 大阪高裁の判決は、私が事実について争った5点について全て私の主張を認めてハラスメントを完全否定し、そのずさんな取材の実態を厳しく批判・指摘。賠償を認め、渡辺氏が自身の指導する大学院学生の三井、中谷両氏を使ってハラスメント被害を捏造し、大学の委員会に申立てをさせて、私の社会的抹殺を狙って文春に垂れ込んだと認定した。高裁判決は、文春側が証拠として提出した渡辺氏作成の電子メール複写などを改竄した痕跡があると断じた。本来、学内のハラスメント委員会などで解決すべき事案を週刊誌に持ち込み、私の名誉を毀損しただけでなく、同志社大学の信用を失墜させたと判示した。つまり、文春は渡辺氏の一方的な主張の裏付けも取らず、真実と決めつけて報道したという判決だった。
一方、中谷、三井両氏のハラスメント被害申立てについて、大学の委員会は民事裁判終結後の2013年8月「ハラスメントはなかった」と決定し、申立てを却下した

 文春裁判では完全勝訴したが、被告の文藝春秋、当時の編集長、契約記者2名は人権侵害記事を撤回せず、私に謝罪していない。ネット上には今も、「週刊文春」の記事が残っており、記事を真実としての論評も消えていない。

『ありがとう、松ちゃん』より構成〉

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浅野 健一

あさの けんいち

ジャーナリスト

1948年香川県高松市生まれ。慶大経卒、1972年に共同通信社入社。
1984年に『犯罪報道の犯罪』を出版。1994年から2014年まで、同志社大学大学院メディア学専攻教授。『客観報道』『安倍政権・言論弾圧の犯罪』など著書多数。2020年、下咽頭がんで声帯を失うが、AI音声などを使って講演を再開。「紙の爆弾」「進歩と改革」に寄稿、朝鮮新報、救援、たん
ぽぽ舎メルマガで連載中。

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