「事実無根の捏造記事」で文藝春秋に名誉毀損訴訟で勝った私からの警告《後編》【浅野健一】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「事実無根の捏造記事」で文藝春秋に名誉毀損訴訟で勝った私からの警告《後編》【浅野健一】

『ありがとう、松ちゃん』より #後編

▲「ゲス不倫」報道しかり。文春はジャーナリズムの使命を果たしているのか?  写真:アフロ

今月8日、松本人志が週刊文春に対する名誉毀損訴訟を取り下げ、約10カ月に及んだ法的争いに一区切りがついた。しかし、かつて同誌から「セクハラ教授」と報じられ、7年に及ぶ法廷闘争の末に完全勝訴を勝ち取った元同志社大学教授でジャーナリストの浅野健一氏の論考を読めば、これは決して一過性の問題でないことがわかる。過去「一方的な告発報道」を繰り返してきた週刊文春は、今後も同様のことをやりかねないのではないか。浅野氏の『ありがとう、松ちゃん』(KKベストセラーズ)への寄稿を特別配信。終盤はこの国のジャーナリズムのあり方を憂う。本来ジャーナリズムの役目は「人民の知る権利にこたえ、人民の権益を擁護し、権力を監視する」ことにある。文春以下日本のオールドメディアはそれが全うできているか?(「ありがとう、松ちゃん」寄稿 #後編 / #前編を読む )


■文春の人権侵害報道との闘いと報復

 私は文春の「ロス疑惑」の「疑惑の銃弾」が連載された84年、これを真っ先に批判したのが私だった。『犯罪報道の犯罪』(学陽書房)を出版したばかりだった。同書をきっかけに85年、「人権と報道・連絡会」(代表世話人・奥平康弘東京大学教授)が誕生した。私は文春の「不倶戴天の敵」ともいうべき存在だった。その「敵」を叩く好機とばかり、同志社大内外の「反浅野グループ」と結託して強行したのが、「セクハラ疑惑」捏造報道だったと私は思っている。

 私の活動の中で、たびたび「報道加害者」として登場したのが文春だ。文春は、警察情報や悪意の伝聞情報のみで犯人扱いしたり、事件関係者のプライバシーを勝手に商品にしたり、少年事件の被疑者の実名を掲載したりするなど「新聞が書かない記事」を売り物に、数十万部を売り上げ、大きな利益を上げてきた。もし記事が訴えられ、裁判で負けても数十万払えばいい、とばかりに。そして、文春に書かれた側の人は一生を台無しにされた。

 私たちは、こうした文春の人権侵害報道と闘い、報道被害者を支援してきた。その文春がついに、闘いの先頭にいた私に対する攻撃を始めた。文春報道は私への一種の「報復攻撃」でもあったと私は考えた。

 私は元朝日新聞編集委員の本多勝一氏らが1993年に創立した「週刊金曜日」に創刊時から書いてきて、故山口正紀、中嶋啓明両氏とリレー連載もしていたが、2017年に突然排除された。元編集長が2023年7月、私に明らかにしたところによると、小林和子編集長が「浅野切り」の急先鋒で、その役を井田浩之・副編集長に振る時に「植村隆社長からの業務命令」という形をとったという。小林氏は、副編集長が「セクハラは事実無根で、連載を続けるべきだ」と抵抗したが、小林氏はセクハラ加害者だと断言していたという。

■松山”農業アイドル”自死で名誉毀損記事を消さない文春

 愛媛県松山市で2019年に起きた〝農業アイドル〞の女性(当時16)の自死を巡り、遺族や代理人弁護士が「所属事務所の過重労働やパワハラが原因」などと虚偽の記者会見をしたため名誉を傷つけられたとして、所属事務所と佐々木貴浩社長が、弁護士5人らに計3740万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2023年2月28日、東京地裁であり勝訴した。東京高裁は7月に被告側の控訴を棄却し、一審判決を維持した。

 遺族が原告になった損害賠償訴訟は、一・二審と敗訴。上告しなかったため、2023年1月、原告の敗訴が確定している。

 野村裁判長は判決で、名誉毀損の成立を認め、遺族と「芸能人の権利を守る日本エンターテイナー協会」(ERA、代理人の弁護士5人が代表理事)などに計567万円の賠償を命じた。望月弁護士と母親のツイッター投稿についても賠償を命じた。

 遺族代理人の佐藤大和氏(レイ法律事務所代表)、河西邦剛氏(同事務所)、望月宣武氏(日本羅針盤法律事務所代表)、安井飛鳥氏、向原栄太郎氏の5名は2018年10月11日に提訴に先立ち開いた会見で、佐々木氏が「(グループを)辞めるなら1億円払え」などと発言し、高校入学金の貸与を取り止めるなどしたことが原因で自死したという印象を与えた。テレビなどが会見での弁護士らの発言を垂れ流し、佐々木氏は「悪徳社長」のように非難されたため、会社の信用は地に落とされ、10人いた従業員は2人になり、農業アイドルは解散に追い込まれた。

 東京地裁判決で厳しく批判された弁護士5人は、普通なら恥ずかしくて街を歩けないと思うが、2024年1月に始まった松本氏に関する、女性に性行為を強要したなどとする「週刊文春」の報道に関し、河西弁護士が「芸能界の訴訟に詳しい弁護士」「エンタメ弁護士」として日本テレビ、TBS、テレビ朝日などに度々出演している。松本氏側が5億5000万円の損害賠償などを求め提訴したことで、河西氏は「第1回口頭弁論は早くて3月初旬か、和解せず徹底抗戦になる場合、一審の判決までに1年半から2年、最高裁までいけば3年以上かかる可能性がある」などと見通しを語ってきた。「女性の出廷の有無にかかわらず、当事者尋問は行われる」などと予言し、スポーツ紙やネットメディアが河西氏のテレビでのコメントや解説を引用して報じている。

 河西氏は〈日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活~推しから愛される術(東京法令出版)」著者〉などと紹介されている。

 遺族と弁護士が大々的に行った記者会見に虚偽の内容があったと裁判所が認定したのに、「タレント弁護士」と彼らに丸乗りしたワイドショーは沈黙。弁護士はテレビで専門家としてお喋りする。キー局は河西氏が佐々木氏の名誉を毀損したことを知った上で、公共の電波に乗せている。万死に値する。

 そして文春オンラインは河西弁護士らの情報をもとに書いた佐々木氏に対する人権侵害記事をいまだにネットに上げている。

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浅野 健一

あさの けんいち

ジャーナリスト

1948年香川県高松市生まれ。慶大経卒、1972年に共同通信社入社。
1984年に『犯罪報道の犯罪』を出版。1994年から2014年まで、同志社大学大学院メディア学専攻教授。『客観報道』『安倍政権・言論弾圧の犯罪』など著書多数。2020年、下咽頭がんで声帯を失うが、AI音声などを使って講演を再開。「紙の爆弾」「進歩と改革」に寄稿、朝鮮新報、救援、たん
ぽぽ舎メルマガで連載中。

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