「三菱UFJ10億円窃盗」の前触れ――ユダヤ人富豪が震え上がった日本の金庫事情
復刊がベストセラー『ユダヤの商法』より #7
今月、三菱UFJ銀行の前代未聞の不祥事が明るみになった。同行の(元)店頭業務責任者が2020年4月から今年の10月までの4年半に渡り、顧客の貸し金庫から10数億円もの資産を窃取していたという。安全性を謳う貸し金庫から、それも当の銀行にお金をパクられるとは――。お人好しの日本人は思いもよらない事態だ。
しかし、今から半世紀も前、日本マクドナルド創業者・藤田田は「そもそも日本の銀行の金庫は、とてもキャッシュを保管できる代物ではない」と警告していた。その気づきは銀行無用論を説くユダヤ人からもたらされた。著書『ユダヤの商法』(KKベストセラーズ)から、藤田と親交のあったユダヤ人が日本の“M銀行”の金庫を見てドン引きしたエピソードを紹介する。(「ユダヤの商法」シリーズ#7 /#1 #2 #3 #4 #5 #6 を読む)
■貸し金庫は安全ではない
昭和四三(一九六八)年の秋、私はニューヨークのアクセサリー商、デーモンド氏のオフィスを訪問した。断るまでもなく、アメリカの一流アクセサリー商であるからにはユダヤ人である。デーモンド氏は、かねてから私に銀行無用論を説いている男でもある。
その時、私はぶしつけに言った。
「デーモンドさん、あなたのキャッシュを見せていただけませんか。もし差しつかえなければ……」
デーモンド氏は気軽に承諾してくれた。
「いいですよ。明日、銀行に来て下さい」
翌朝、私はデーモンド氏と銀行で落ち会った。デーモンド氏は、銀行の地下にある薄暗い金庫の奥の方へ案内してくれた。
デーモンド氏が開けて見せてくれた金庫は壮観だった。金庫の中は各種の紙幣と金塊がびっしりと積まれている。日本円に換算してざっと二、三〇億円はあったと思う。
紙幣は新しいものもあれば、これが今でも通用するのかと思われるような、五、六〇年前の古びたものまであり、それらが、きちんと整理して束ねられ、積み重ねてあった。
デーモンド氏は、銀行へ〝預金〟しているのではなく、安全に「管理」されているだけなのである。
■銀行の金庫はハリコの虎か
昭和四五(一九七〇)年一月、商用で来日したデーモンド氏が私のオフィスを訪ねて来た時、私はニューヨークでのお返しの意味もこめて「きょうは私の金庫をお見せしましょう」と申し出た。私の金庫は、私の会社と同じビルの一階にあるS銀行新橋支店の金庫室にある。
エレベーターで地下一階に降りると、入口で受付嬢が愛嬌たっぷりに言った。
「いらっしゃいませ。藤田さんですね。何番でございますか」
私が番号を言うと、受付嬢はキイで私の金庫をあけてくれた。
「オー・ノー」
オフィスへ帰ってくると、デーモンド氏はオーバーなゼスチュアで私に忠告した。
「私は、あんな危険な金庫は絶対にいやだね。エレベーターで降りるとすぐに金庫の受付があって、しかもそこにいるのは若い女性じゃないか。もしも、銀行ギャングが機関銃を構えて現れたら、誰がどのようにして、あなたの財産を守ってくれるのかね。そんな金庫に、私は自分の財産を預ける気にはなれないよ。金庫は絶対的な安全を保証できる場所にあるべきだ。日本の銀行の金庫は、ハリコの虎みたいなものじゃないか。いざという時何の役にも立たないね」
デーモンド氏は恐ろしそうに首をすくめた。そして、初めて見た日本の金庫のことがよほど気になったらしく、しつこいほどブツブツ言った。
「私が銀行の金庫にキャッシュを保管するのは、絶対安全に私の財産を保護してくれるからだ。日本の銀行の金庫は、単なる銀行サービスのひとつの現れにすぎない。あまりにも危険がいっぱいすぎる……」
ただでさえ銀行を信用しようとしないユダヤ人にとって、日本の銀行の金庫は、とてもキャッシュを保管できる代物ではないようだ。
〈『ユダヤの商法』より構成〉