時代に裏切られたとき、「保守」は破壊の理念となる【佐藤健志】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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時代に裏切られたとき、「保守」は破壊の理念となる【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」52

カザフスタンを訪問した際に会談後に会見したプーチン大統領(2024年11月28日)

 

◆現実はSFホラー映画を模倣する

 ウクライナ戦争がヤバくなってきました。

 アメリカのジョー・バイデン大統領は1117日、自国の供給した長距離ミサイルを使って、ウクライナがロシアを攻撃することを許可

 「ロシア西部のクルスク州に侵攻したウクライナ軍を守るべく使用する場合に限る」という限定条件つきとのことですが、従来の方針を転換したのは間違いありません。

 

 現にウクライナは1119日、アメリカ製の長距離ミサイル「ATACMS(陸軍戦術ミサイル・システム)で、クルスク州の北西にあるロシアのブリャンスク州を攻撃

 翌20日には、イギリス製の長距離巡航ミサイル「ストームシャドウ」をクルスク州に撃ち込みます 

 たいするロシアは1121日、ウクライナ東部のドニプロ市を中距離弾道ミサイル「オレシュニク」で攻撃

 この二日前、つまりウクライナがATACMSをブリャンスク州に発射した日、ウラジーミル・プーチン大統領は核兵器使用に関する指針の改定を承認しました。

 

 新しい指針によれば、核保有国の支援を受けている国が、通常兵器・ドローン・航空機などでロシアに大規模攻撃を加えた場合、たとえくだんの国が核兵器を持っていなかったとしても、ロシアは核の使用を検討する可能性があるとのこと。

 そしてオレシュニクは核弾頭も搭載できるのです!

 

アレクサンドル・ドゥーギン

 

 ロシアの思想家アレクサンドル・ドゥーギンは2023年の時点で、ウクライナ戦争の帰結は、ロシアの勝利か、核戦争による人類滅亡かの二択だと述べましたが、この発言、もはやシャレにならないかも知れません。

 「『滅亡と絶望』、またはプーチンの超時空戦争」(令和の真相51)で論じたとおり、これは2021年のロシア映画『滅亡と絶望』(アレックス・ウェスリー監督)がひそかに警告したこと。

 われわれは「現実がSFホラー映画を模倣する」世界に生きているのです。

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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