時代に裏切られたとき、「保守」は破壊の理念となる【佐藤健志】
佐藤健志の「令和の真相」52
◆果てしなき破壊の果てに
「地域覇権の復活」という発想が示すように、勢力圏構想は過去回帰の性格を帯びている。
当然の話でしょう。
アメリカの世界的覇権、ないし一極支配という現状を受け入れるかぎり、先に行けば行くほど、事態はロシアにとって不利になるのです。
となれば、めざすべきは未来ではない。
過去に存在していた、より望ましい状態こそがゴールとなる。
これは「現状」ではなく「原状」と呼ばれます。
英語だと、「現状」が「status quo」なのにたいして、「原状」は「status quo ante」。
「Ante」は「以前の」を意味する言葉ですから、「過去の現状」ということです。
むろん、この姿勢は保守主義的なもの。
ただし望ましくない「現状」が、当の回帰を妨害しているのですから、くだんの姿勢は現状を「否定・破壊すべきもの」と位置づけることにいたります。
「現状維持を便利(=好都合)とする国は平和を叫び、現状破壊を便利とする国は戦争を唱ふ」とは、「ウクライナ戦争と近衛文麿の洞察」(令和の真相44)で紹介した名言ですが、これにも「原状復活を便利とする国は、現状破壊を保守と見なす」と追加せねばなりません。
時代に裏切られたとき、保守は破壊の理念となるのです。
けれども問題は、現状を破壊したところで、原状が復活するわけではないこと。
時間は元に戻らないのです。
言い換えれば原状とは、すでに失われてしまったもの。
復活させようとしても、結局はうまく行きません。
ウクライナ戦争を例に取りましょう。
プーチンがゼレンスキーを打ち負かし、ウクライナ東部を(クリミアともども)支配下に置いたところで、ソ連時代のような地域覇権が甦ることにはならない。
ましてイヴァン雷帝やピョートル大帝、エカテリーナ女王が君臨した時代に戻るなど完全に無理。
今やロシアは、北朝鮮に手助けしてもらっているくらいなのです。
できることと言えば、「過去回帰による原状復活」という見果てぬ夢を追って、ひたすら現状を破壊しつづけるだけ。
その論理的な帰結は、〈現在の世界〉の全面的否定、すなわち世界全体の破壊にほかなりません。
アレクサンドル・ドゥーギンも、ロシアは勝利するまで止まらないので、ウクライナ戦争はいつまでたっても続く可能性があると認めています。
とはいえ(少なくとも)冷戦終結以後の歴史を全否定しないかぎり、真に勝利したことにはならないとすれば、これは「ロシアは〈現在の世界〉を丸ごと破壊するまで止まらないので、ウクライナ戦争はいつまでたっても続く」ことを意味するのではないでしょうか?