時代に裏切られたとき、「保守」は破壊の理念となる【佐藤健志】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

時代に裏切られたとき、「保守」は破壊の理念となる【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」52

プーチン 

 

◆『滅亡と絶望』が暴いた真実

 現にプーチンは1121日、クレムリンから行ったテレビ演説でこう語りました

 

 【(ATACMSとストームシャドウを使った攻撃が行われた)その時点から、西側の挑発によってウクライナで生じた地域紛争は、地球規模のものとしての性格を持つにいたった。これについては、今までも再三再四、警告してきたはずである。】

 【あらためて強調しておこう。国際的な安全保障のシステムをぶち壊したのは、ロシアではなくアメリカだ。そしてアメリカは、覇権国の座にしがみつこうと戦いつづけることで、世界全体を戦乱へと追いやっているのである。】

 

 ここまで来ると、映画『滅亡と絶望』の内容は、いよいよ意味深長なものとして浮かび上がる。

 二人の兵士はなぜ、「過去の異次元」に送り込まれたのか?

 送り込まれた先では、なぜ文明が滅んでいたのか?

 

 それはウクライナ戦争が、「われわれは時代に裏切られた」という被害者意識(上記のテレビ演説で、プーチンが全てを西側、わけてもアメリカのせいにしていることに注意)に基づいた過去回帰願望の産物であり、かつそのような「原状復活」の試みは、現状の全面的破壊に行き着くからなのです!

 

 しかも『滅亡と絶望』からは、さらに深い洞察を引き出すことができる。

 兵士の一人、「コンバット」ことシシュキンはアース66.9の環境に順応、そこらに散乱している死体の肉を平気で食べるようになりますが、スピリドノフはどうしても抵抗感がなくならない。

 シシュキンは愛想を尽かし、戦友を置き去りにして姿を消します。

 

 やがてシシュキンは「核生物兵器」の影響でミュータント(突然変異の怪物)となり、アース66.9に完全に適応。

 彼はスピリドノフを見つけ出すと、ある施設に拉致します。

 そこでは人間をミュータントに変える手術が行われている。

 スピリドノフはこうして、人為的にミュータントにされてしまうのです。

 

 見方によってはシシュキン、戦友をアース66.9で生きてゆけるようにしてやったと解釈することもできる。

 ところがスピリドノフが施設から脱出しようとしたため、力づくで止めに入ります。

 二人は死闘を繰り広げることになり、最後にはシシュキンがスピリドノフを惨殺するのですが・・・

 

 これもまた、現在の世界について多くを語っているのですよ!

 続きは次回、お話ししましょう。

 

(※)『滅亡と絶望』DVDの画像は、輸入ブルーレイ&DVD専門店「ビデオマーケット」の提供によるものです。ここに謝意を表します。

 

文:佐藤健志

 

KEYWORDS:

オススメ記事

佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

この著者の記事一覧