そうか「自分に価値がある」と思えていなかったのか。迷えるZ世代編集者を救ったアドラーの教え【梁木みのり】
担当編集者書き下ろしコラム
■今の仕事は「天職」だと胸を張って言えるか?
そんな人にとって、「自分に価値があると思えるかどうか」は、今の自分の環境を客観的に見るための助けになるのではないか。本書の帯にも大きく載せたが、今の職場で自分に価値があると思えるか? 今の仕事は胸を張って「天職」だと言えるのか? と自分に問いかけてみてほしい。その答えが、新しい生き方への第一歩になるかもしれない。
もちろんその「価値」とは、お金や地位で測れるものではない。社会に、他者に、自分がどんな形で貢献したいのかがそれを決める。それは個々人の中にある、その人にとっての「価値」なのだ。
本書では「なぜ働くのか」だけでなく、職場内の人間関係の捉え方についてもページを割いて触れられている。アドラーは「すべての悩みは対人関係の悩みである」と言っているからだ。
上司との関係に悩む部下も、部下との関係に悩む上司も、星の数ほどいるだろう。何でもかんでもパワハラと言われるから部下に話しかけづらい、なんていう風潮が生まれている今、解決策はあるのだろうか。
岸見氏は、アドラー心理学の知見から、「叱る」ことの危険性や、「ほめる」ことのまさかの危険性、では上司は部下とどうコミュニケーションを取ればよいのかを説く。さらに、「上司が理不尽なことを言うのは、“部下に認めてもらいたい”という承認欲求があるから」「部下を飲み会に誘うなら、参加するだけの価値があるものであることを説得できなければならない」といったことまで書いてある。今回の新装版は2016年に刊行された初版を底本にしている。にもかかわらず、なんと令和の職場にマッチしたアドバイスだろうか。
一つの会社にい続ける働き方が当たり前でなくなった現代で、本書はよりいっそう真価を発揮する。ただお金や地位を求めるだけの生き方ではない、本当に幸せになれるキャリアを考えるための助けになってくれるだろう。転職を考えている人にももちろん役立つし、今の職場をもっと働きやすくしたい人にも大いに役立つはずだ。
2024年版として岸見氏が新たに書き下ろした「はじめに」には、こんなメッセージが記されている。
胸が熱くなるような決断を下すためには、自分の力を活かして、本当にしたいことをしているかと感じられなければなりません。本書が、忙しい生活の中にあっても立ち止まって働くことや生きることについて考える時のヒントになれば幸いです。
一日中働いて疲れた後で、本書を開いて少しでも楽になってもらえたら、こんなに嬉しいことはない。
文:梁木みのり(BEST T!MES)