英国の家は欧州でいちばん小さい。でも贅沢!
インタビュー/『イギリス流 小さな家で贅沢に暮らす』著者・井形慶子
Q1 まず、本書を上梓された理由をお聞かせください。
井形:実は、イギリスの「小さな家」をテーマにした本は、今から10年ほど前に一度書いているのですが、そのときと今では日本の社会状況もずいぶん変わりました。実質的な賃金はどんどん下がっていますし、社会問題となっている空き家も全国的規模で増え続けています。また、地方に暮らす親をどうしたらいいかという新たな介護・実家問題も起こっています。
少子化が進むなかで親子は離ればなれに暮らしている。地方には親の住む家がある、あるいは親が住んでいた家が残っている。そんな現代の日本にあって、どういう家に住むのがいちばん幸せなのだろうかと考えたとき、多くのイギリス人が暮らす「小さな家」にヒントがありそうだと思いました。
Q2 本書では「イギリスの小さな家」がたくさん紹介されていますが、イギリス人はなぜ小さな家に拘(こだわ)るのでしょう?
井形:イギリスの平均住宅床面積は、お屋敷のような大きなものを含めて計算しても約85㎡。新築住宅になるとさらに小さくなって70㎡程度で、ヨーロッパの国のなかではいちばん小さいそうです。小さいと言われる日本でさえ平均床面積は94㎡ですからイギリスのそれがいかに小さいかがわかるでしょう。
私は50歳のときにロンドンに小さな家を持ちましたが、現在のロンドンの家の値上がり率は信じられないほどに高い。だから一般の人々はロンドンには家を持てないので続々と地方に移転しています。
日本でも自分の好きな街(人気の高い街)に家を持ちたいと思っても、経済的理由から小さな物件にしか手が届きません。そこで注目されるのが、この「小さな家」ということになるのです。
ちなみにイギリスの「小さな家」の代表は、日本でいうところのワンルームタイプのマンションです。ワンルームタイプは日本では若い独身者しか住まないというふうにカテゴライズされていますが、イギリスでは「スチューディオ」と呼ばれていて、ここにリフォームで中二階のロフトを造ったりして、新婚のカップルなどが暮らしています。
Q3 現在、日本にはいわゆる「実家の家問題」があります。本書にはその解決のヒントがあると思うのですが?
井形:先ほどもお話ししたとおり、今の日本では、親の住む家(実家)と遠く離れた場所で所帯を持って暮らしている人が多くいます。そんな自分の家を確保した人にとって、実家というのは時にはわずらわしい不動産案件になっているわけです。そのような状況にあるとき、イギリス人はどう対処するか興味を持ちました。
イギリス人は年老いてもなお自立して暮らしていくというのが生き方の前提としてあるので、2世帯同居というのは稀(まれ)です。多くのイギリス人は年老いてくると、それまで家族と一緒に暮らしてきた大きな家を転売し、差益を老後資金にして自分が管理できる範囲の家に暮らすというダウンサインジングを辿ります。人生の最期まで自立して生きるためです。
このイギリス流の住まい術は、「実家はある。けれど子どもは親の面倒はみたくない、親も子どもの世話にはなりたくない」と思っている現代の日本人には大いに参考になるのではないでしょうか。
Q4 「ホームリー」という言葉がたびたび出てきて印象的ですが、これは具体的にはどのような感じなのでしょうか?
井形:「ホームリー」というのは、「我が家のように居心地がよい」という意味です。イギリスで「家」というのは、日本の認識でいうと「ホーム」と「ハウス」という2つの言葉に分かれます。ハウスは建物で、ホームは我が家というニュアンスですね。イギリス人にとって、「ホームリーな家」というのは、大きさに関係なく、むしろこぢんまりとしたスペースで、自分の好きな家具や道具に囲まれて自分らしく生きられる場所を指します。
Q5 「イギリス人は、たとえ不便でもキャラクターハウス(個性的な家)を好む」と書かれています。日本だと利便性を優先すると思うのですが、この違いはどこからくるものだと思われますか?
井形:イギリス人にとって「いい住宅」というのは、そこに広い意味の歴史や個性が刻まれている家のことです。例えば、年代ものの家がそうです。100年あるいは200年経った家のほうが新築住宅よりも価格が高いというのもイギリス人にとってのいい住宅の尺度です。
なぜイギリス人は利便性よりも個性を重要視するかというと、「家には自分の価値観がきちんと投影されるべき」という考えがあるのです。家の玄関にハンギングバスケットを吊るしたり、猫の額のような小さな庭であっても、そこに花を植え、自分が美しいと思う庭を造る。また、6畳程度の小さな居間であってもそこに家族が代々大事にしてきた家具を置くというように、家というのは自分で造っていくもの。そのプロセスで成熟した家だという考え方がイギリス人の根底にあるのです。だから日本のように新しさ、すべてにおいて機能性を優先する価値観とはまったく違うのです。
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