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必要なのは〝マルクス〟ではなく〝シュンペーター〟 「イノベーションの理論の父」と呼ばれた理由【中野剛志】

 

 本書(『入門 シュンペーター』)では、特に『経済発展の理論』と『資本主義・社会主義・民主主義』を中心に解説します。

 シュンペーターは、一九五〇年に、この世を去りました。

 シュンペーターが後世の社会科学に与えた影響は、計り知れないものがあります。

 経済学という学問に大きな影響を及ぼしたことについては、言うまでもありません。

 しかし、シュンペーターは、狭い意味での「経済学者」ではありませんでした。もっと壮大な社会科学の理論家だったのです。しかも、非常に独創的でした。

 今日、イノベーションに関する研究が著しく発展していますが、その出発点となったのは、明らかにシュンペーターです。イノベーションの研究者で、シュンペーターの影響から逃れている人はいないと言っても過言ではないでしょう。

 シュンペーターの『資本主義・社会主義・民主主義』は、企業の組織形態や戦略の重要性に光を当てたものですが、この書は、産業組織論や企業戦略論への道を拓くものでした。

 シュンペーターの『景気循環論』は、歴史的な視点から資本主義の発展過程を分析したことで、その後の経営史研究の先駆けとなりました。

 また、シュンペーターの多大な影響を受けて、「進化経済学」という新しい分野が誕生し、大きく発展しています。

 ほかにも、経済を社会学的なアプローチで分析する「経済社会学」という分野があります。この経済社会学を開拓した先駆者には、カール・マルクス、マックス・ウェーバー、エミール・デュルケーム、カール・ポランニーに加えて、シュンペーターの名も挙げられています。

 さらに、『資本主義・社会主義・民主主義』は、民主主義についての新しい見方を提示し、民主的過程を分析する政治学の発展に貢献しました。

 そして、シュンペーターの『経済分析の歴史』は、経済学説史という分野におけるバイブルとなっています。

 それでは、早速、シュンペーターの著作をひもといてみましょう。

 まずは、イノベーションの理論の金字塔『経済発展の理論』から始めます。

 シュンペーターは、イノベーションについて、どんなことを語っていたのでしょうか。

 

※中野剛志著『入門 シュンペーター』(PHP新書)から抜粋

 

文:中野剛志

 

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中野 剛志

なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。


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