孤独が好きになる理由【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第34回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

孤独が好きになる理由【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第34回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第34回


森羅万象をよく観察し、深く思考する。新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白くなる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎BEST TIMES連載(2022.42023.9)森博嗣『静かに生きて考える』が書籍化(未公開原稿含む)。絶賛発売中。


 

 

第34回 孤独が好きになる理由

 

【「孤独だ」と人からいわれる?】

 

 孤独が好きか、というと、べつに好きというわけではない。ただ、嫌いでもない。好きか嫌いかなんて考えたことがないし、そもそも「孤独」というものを感じたことがない。どういった状態が孤独なのかも、よくわからない。一人でいると孤独なのだろうか。話す相手がいないこと?

 「孤独死」という言葉があるが、単に一人で生活していたら、死んでも誰も気づかない、というだけのことでは? 死んだ本人が孤独だったかどうかなんて、誰が判別するのだろう? 一人で楽しい人生を満喫していたかもしれない。孤独死だったと哀れに思われるなんて不本意というか、余計なお世話というか、ある意味で、屈辱的だし、名誉毀損ではないだろうか? まあ、死んだらべつになにも関係はないから、どう思われてもかまわん、というところが本当だろう。

 生きている人の場合も、たいていは他者が「あいつは孤独だ」と指摘する場合が多い。自分で「私は孤独です」なんて主張する人は少ないのではないか。もしそういう人がいたら、ユーモアのセンスがあると感じる。他者のことを「孤独な奴だ」と悪口のつもりでいっている人は、自分は仲間が多いが、その仲間に含まれない人を攻撃している、といった感じだろうか。しかし、その人の仲間だって、ろくなグループではないかもしれない。仲間がいることは、はたして良い状況なのだろうか?

 僕は、そんなふうには感じない。仲間がいても、いなくても、得でも損でもないし、有利でも不利でもない、と正直考えている。どちらかというと、仲間というのは面倒くさいものだ、とマイナスに評価する方が多い。仲間がいるために得をしたり、救われたことはほとんどなく、仲間がいるから、時間を取られたり、余計な役目が回ってきたりと、むしろ不利益の方が多い。トータルでいうと、得と損は3:7くらいだろう。

 まあ、どちらでも良い。仲間が好きだという人はいるみたいだし、仲間がいるだけで満足したり、安心できる人も、どうやらいるみたいだ。そういう人に文句をいうつもりはない。よろしいのでは?

 僕の場合、楽しみのほとんどは自分一人で完結するものなので、一人でいる時間をとても大切にしている。一人でいるときが一番楽しい。もし、一人でいる状態を孤独というならば、孤独が楽しいことになる。それから、「寂しい」状況も大好きなので、寂しさを感じる時間も大事だと思っている。寂しいな、なんて感じるのは、綺麗な心というか、侘び寂びの感覚に近い。寂しいときに素晴らしい発想が生まれることも多い。たとえば、素敵な芸術は、孤独や寂しさから生まれるだろう。そういう体験は貴重だし、このうえない思い出にもなる。

次のページ孤独を恐れる人は大勢の中にいる

KEYWORDS:

オススメ記事

森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

この著者の記事一覧