落合陽一×中谷一郎「人間の手を離れたロボットは、ホロコーストを再現するかもしれない」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

落合陽一×中谷一郎「人間の手を離れたロボットは、ホロコーストを再現するかもしれない」

本当のロボット社会 第2回 メディアアーティスト・落合陽一×JAXA名誉教授・中谷一郎

「ヒューロ」になった人間が宇宙を開拓していく

 

中谷:いずれにしても人間は進化して無機物になっていくと思いますから、そもそも睡眠という概念もなくなるでしょうね。やはり地球の資源とか環境は有限で、何億年といった長期にわたって人間を支えていくとは思えません。人間が滅びてしまうか、ヒューロのような形で宇宙に展開していくか二者択一だと思いますね。私たちは展開していく方を選ばなきゃいけないんじゃないかな。

 

落合:100%展開していくと思いますよ。まどろっこしい法律とかの問題は解決されていくでしょうし。ただ、ヒューロもいろんなシナリオが考えられると思います。
 たとえば、すごく性能のいいインターネットのサブコピーのような宇宙船があるとします。その宇宙船自体が思考をしていて、そこに乗っている人間が自律的に子供を増やせるような家族だとしたら、これも全体で一つのヒューロだと言えそうですよね。こういう開拓船を地球から宇宙に出していくというのはSFでよく書かれるシナリオですけど、十分に可能だと思いますよ。
 社会システムから切り離された少数の人数がとる行動を予測するには、もう少し心理学的な知見がいるかもしれないですけど、宇宙を開拓していくようにはなります。まずは一個体を先行させてばらまいたあとに、人間を行かせるのがいい感じかな。

 

中谷:真空に人間がいく、無機物になった知的生命体が宇宙に展開していくのはちょっと想像できないと思う人が多いんですが、実はそんなに突拍子もない話しじゃないですよね。
 生命は38億年くらい地球上にいるわけですが、その内の34億年くらいは海の中でした。まだそれが陸に上がってきて4億4000万年程度ですから、本当にわずかな期間なんです。その流れから見て、これから先に何億年と生命がつながっていくのであれば、活動圏を真空に広げて行かざるを得ないんじゃないかという気がしますね。

 

落合:水から酸素外気に適応できたわけですから、真空に生き物が適応することも可能だと思います。カニとか真空に出しても何とかなりそうじゃないですか、なんとかならないですけど(笑)。昆虫とか外骨格生物は見た目も宇宙向きな形をしてますから、そういう生物が出てこないとは限らない。
 今はまだ実験できないですけど、真空に適応できるような人工実験環境を保って実験するのも面白いかもしれない。そういった生態系を10億年くらい保つためのロボットは作れるかもしれない。地球は外乱が多いので難しいですけど、太陽光で自立発電するようにしておいて、ラグランジュポイントかなにかに浮かしておいて、その中でずっと交配実験していくような系を組む研究は可能かも。そういうこと考える研究者も多いのでそれはやるかやらないかだと思います。

 ちなみに、まだ倫理的な問題で研究が進められていないと思うのですが、コールドスリープ(冷凍睡眠)の研究は進めた方がいいと僕は思うんです。凍らせてしまえば隣の惑星に行くのも楽だし、1万年、2万年は平気で保存できると思うんですよ。中谷先生は100年くらい自分を保存できるとしたら、やりますか?(笑)

 

中谷:やるとしても、コールドスリープは、時間つなぎですかね。究極的には人間はやがて無機物の新しい生物になると思うので、もし今の私の寿命が無機物のロボットになるまで続かないとなれば、コールドスリープもやるかもしれませんね(笑)。

 

落合:真空に対応するということを考えると、やっぱり人間は無機物になると思いますよ。

 

中谷:無機物になってしまえば、進化もDNAなんかではなくて「設計」になりますからね。今はちょっとDNAをいじるだけでも大騒ぎですけど、これからは自由自在に無機物を設計できるようになる。何が起こるのか、本当におそろしいですよね。

 

落合:CADで無機物のロボットを自由に設計できるとすると、そのロボットは進化をしないわけですよね。今人間が持っている遺伝情報というのは、たかだか3GB程度なんですよ。でもペッパーの外部記憶を伴わないアルゴリズムの情報や外装データだって3GB以内に収まっていますから、その程度のロボットを作ることって余裕なんですよね。
 つまり、通信しているインターネットの側はものすごいデータが多いんですけど、外装のCADデータなんて本当に大したことがない。インターネットありきで考えれば、人間の設計図は単純なのかもしれません。

 

中谷:本当は押さえるべき情報というのは、そんなに多くないのかもしれないですね。今ロボット研究の一部に遺伝的アルゴリズムを使ったものがあります。
 これは、人間が計算して設計をするのではなくて、コンピューター上に遺伝子のようなものを作って、コンピューターの内部で自然淘汰のようなことを繰り返すことにより人間が想像すらしなかったような設計を実現するものです。コンピューターの中での進化の結果、ごくわずかな情報で、人間がまったく思いもつかなかったようなロボットに進化していくわけですね。

 

落合:人間だって、何の知識もない状態で生まれてきて、社会システムが教育してデータ量を増やしていく生物ですからね。遺伝システムってものすごく性能の高いハードウェアとソフトウェアで、情報量はかなり圧縮されているんですけど、身体情報はそこに記述されている。
 だから情報量からしたら、無機ロボットはありだと思いますよ。無機的な外装と、有機的な遺伝情報の両方を持っているものが普通になっていくんじゃないでしょうか。さきほどのヒューロのような人間とコンピューターをセットにしたシステムという発想で言えば、心理学と教育学の知見が入ってきて、「教育」が進んでいくかもしれません。

次のページロボットの優生学は止めることができない

オススメ記事

中谷 一郎

なかたに いちろう

1944年生まれ。JAXA名誉教授、愛知工科大学名誉教授。1972年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。電電公社電気通信研究所に勤務し、通信衛星の制御の研究に従事。1981年より宇宙科学研究所(現JAXA)に勤務し、助教授・教授を務める。科学衛星およびロケットの制御、宇宙ロボットの研究・開発に従事。東京大学大学院工学系研究科助教授・教授、愛知工科大学教授、東京大学宇宙線研究所客員教授・重力波検出プロジェクトマネージャーを歴任した。


この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

意志を持ちはじめるロボット (ベスト新書)
意志を持ちはじめるロボット (ベスト新書)
  • 中谷一郎
  • 2016.09.09