「過剰」すぎる人々はわれわれに何を残して逝ったのか? 2024年を振り返る(前編)【近田春夫×適菜収】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「過剰」すぎる人々はわれわれに何を残して逝ったのか? 2024年を振り返る(前編)【近田春夫×適菜収】

【隔週連載】だから何度も言ったのに 第77回


2024年.今年もたくさんの方が亡くなった。クインシー・ジョーンズ、楳図かずお、谷川俊太郎、福田和也……。「過剰」すぎる人々はわれわれに何を残したのか。ミュージシャン近田春夫氏と『自民党の大罪』(祥伝社新書)で平成元年以降、30年以上かけて、自民党が腐っていった過程を描写した適菜収氏の異色対談。「だから何度も言ったのに」第77回。また適菜氏は、近田氏と宮台真司氏との共著『聖と俗  対話による宮台真司クロニクル』の帯推薦文を寄稿し話題になっている。


クインシー・ジョーンズ

 

◾️ブラックミュージックの巨匠 クインシー・ジョーンズの死

 

近田:僕が適菜さんの存在を知ったのは、10年以上前になるかな、かつて適菜さんが産経新聞に連載していたコラムでした。まあ、ご多分に漏れず、僕も産経新聞のことは色眼鏡で見ていたところがあったんだけど、他の記事はさておき、病院の待合室なんかで読むそのコラムだけは何だか毛色が違った。

適菜:当時、産経新聞の一面でコラムを書いていた私が言うのも何だけど、産経新聞が露骨に劣化していった時期でしたね。ネトウヨに迎合した記事を載せているうちに、ネトウヨレベルの記者が記事を書くようになった。

近田:そうなのよ。だからか、そのコラムにも、明らかに当の掲載紙である産経新聞を批判している含みがあってさ(笑)。この人、面白いなと思っていたら、週刊文春でも適菜さんの連載が始まった。

適菜:あれは、2013年のことですね。

近田:当時の文春には、僕も「考えるヒット」を連載していたから、同僚になったみたいな気分があったんですよ。その適菜さんのコラムのタイトルは「今週のバカ」(笑)。これまたインパクトが大きい。

適菜:ありがとうございます。

近田:産経新聞という媒体の印象から、年配の人物をずっと想像してたんだよ。でも、文春でプロフィールを見たら、1975年生まれとある。ずいぶん若いじゃないかと驚いた。

適菜:そんな若いやつがなんで新聞で書いているんだと、当時、よく言われました。

近田:いつか会える機会があればいいなあと思ってたんです。そんな折、4年ほど前に、TOKYO FMの「TOKYO SPEAKEASY」という深夜番組から出演依頼があって、誰か、トークの相手に好きなゲストを招いていいですよという。そこで頭に浮かんだのが、適菜さんでした。

適菜:思いがけないオファーをいただいて、光栄でした。

近田:残念だったのは、コロナ禍の真っ最中だったゆえ、スタジオに赴いて対面で話すことは叶わず、お互い、リモートでの収録となったこと。だから、今日こうしてお会いできるのは本当にうれしくって。

適菜:その流れで、宮台真司さんと近田さんの共著『聖と俗 対話による宮台真司クロニクル』の帯に、私が推薦コメントを書くことになったのですね。

近田:「私は泣いた! 本書は社会学版ヰタ・セクスアリスである。」ってやつね。あの対談本の本質を見事に言い当てた、秀逸なコメントだと思います。適菜さんという人選は、僕の方から提案したんだけど、その期待にしっかりと応えていただき、感謝しております。

適菜:ありがとうございます。

近田:で、そのラジオの収録で知った収穫が、適菜さんという人が、実は音楽にも詳しいという事実。特に、ブラックミュージックがお好きなんですよね。

適菜:音楽は好きですけど、詳しいわけではありません。単なる趣味なので、あまり言及しませんし。

近田:ブラックミュージックといえば、長年、そのジャンルの巨匠として君臨してきたクインシー・ジョーンズが、今年の11月に亡くなりましたよね。

適菜:私とクインシー・ジョーンズの出会いは早いんです。幼稚園から小学校に上がる頃だと思うのですが、クインシーの曲を収めたカセットテープが、父親の車の中でずっと流れてたんですよ。だから、私にとっては幼い頃の思い出の一部となっています。

近田:僕は、クインシーについてはあんまり詳しくないんですよ。一番印象に残る楽曲は、「ソウル・ボサ・ノヴァ」かなあ。あの曲は、映画『オースティン・パワーズ』シリーズで再び脚光を浴び、現在は、ソフトバンクのCMにも起用されているから、今のリスナーにも聴き馴染みがあるはず。

適菜:著名なナンバーといえば、「愛のコリーダ」ですよね。

近田:あれさ、世間ではあまり触れられないんだけど、そもそも、クインシーのヴァージョンはカバーで、オリジナルは、チャス・ジャンケルっていうイギリスのミュージシャンの楽曲なんですよ。

適菜:どういうミュージシャンなんですか?

近田:イアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズのキーボーディストにして音楽的中核。「愛のコリーダ」は、オリジナルの時点でディスコ調の骨格やアレンジのディテールはほとんど出来上がってるから、クインシー・ジョーンズの貢献は、実を言うと、さほど大きくないと思うんですよね(笑)。俺、むしろチャス・ジャンケルのオリジナルの方が好きだもん。

適菜:なるほど。ザ・ブロックヘッズは、忌野清志郎が87年にロンドンで制作した『RAZOR SHARP』のバンドですね。

近田:あのアルバムの段階では、チャス・ジャンケルはブロックヘッズから抜けているんだけどね。そうそう、音楽家ということでいえば、楳図かずおさんの逝去にはショックを受けましたよ。

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近田春夫×適菜収/下井草秀

ちかだ はるお×てきな おさむ/しもいぐさ しゅう

近田春夫(ちかだ はるお)

音楽家。1951年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部中退。1975年に近田春夫&ハルヲフォンとしてデビュー。その後、近田春夫&ビブラトーンズ、ビブラストーン、President BPM名義でも活動する一方、タレント、ラジオDJ、CM音楽作家、作詞家、作曲家、プロデューサーとして活躍。現在は、バンド「活躍中」、ユニット「LUNASUN」のメンバーとしても活動する。文筆家としては、「週刊文春」にJポップ時評「考えるヒット」を24年にわたり連載。著書に『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』(リトルモア)、『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』『グループサウンズ』(ともに文春新書)など。最新刊は宮台真司氏との共著『聖と俗  対話による宮台真司クロニクル』(KKベストセラーズ)。

 

適菜収(てきな・おさむ)

作家。1975年山梨県生まれ。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム近代的人間観の超克』(文春新書)、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』、『国賊論 安倍晋三と仲間たち』、日本人は豚になる 三島由紀夫の予言』『日本をダメにした新B層の研究(以上、KKベストセラーズ)、『ナショナリズムを理解できないバカ』(小学館)、最新刊『コロナと無責任な人たち』『安倍晋三の正体』『自民党の大罪』(祥伝社新書)など著書40冊以上。「適菜収のメールマガジン」も配信中。https://foomii.com/00171

 

下井草 秀(しもいぐさ しゅう)

1971年宮城県生まれ。エディター/ライター。音楽、映画、書籍といったカルチャーに関する記事を「TV Bros.」「POPEYE」などに寄稿。また、照山紅葉(秦野邦彦)との「ダミー&オスカー」、川勝正幸との「文化デリック」としてユニット単位でも活動する。これまでに構成・執筆を手がけた単行本に、細野晴臣・星野源『地平線の相談』(文藝春秋)、横山剣『僕の好きな車』(立東舎)、ジェームス藤木『ジェームス藤木 自伝』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、近田春夫『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』(リトルモア)、同『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』『グループサウンズ』(文春新書)などがある。取材・構成を行った最新刊は、宮台真司・近田春夫『聖と俗 対話による宮台真司クロニクル』(KKベストセラーズ)。

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