山本五十六が問いかける「人を育てること」の本質
【連載】「あの名言の裏側」 第5回 山本五十六編(2/4) 褒めて、任せて、信頼する…
立場が下の人間としてこれらの発言を聞かされたら、「こんな上司、指導者、親がいてくれたら……」と素直に感じ入ってしまうような内容といえます。が、いざ自分がこれを実践しなければならない立場になったとしたら、そうやすやすとはできないことを痛感することになるでしょう。
褒めて、任せて、信頼する──言うのは簡単ですが、現実はそうたやすくありません。たとえば、下の人間に対して「なぜできないのだ、と叱責してしまう」「相手の発言を頭ごなしに否定してしまう」「相手のことが認められず、つい余計な口を挟んだり、手を出したりしてしまう」「自己保身の感情も手伝って、『言う通りに動かないのでは』『ミスをするのではないか』などと疑心暗鬼になり、相手のことを信用することができない」といった状況に、とかく陥りがちです。
今回の山本氏の名言が物語っているのは「まずは自分自身が周囲の人々や仕事に対して誠実でなければならない。そのためにも、自己研鑽を怠ってはならない。決して傲慢にならず、周囲に寛容でなければならない」といった、上に立つ者が持たなければならない覚悟と矜持、そして克己心であると、筆者は考えます。人材育成の本質とは「自分がこれまで、どれだけ成長できたか。そして今後、どれだけ成長できるか」を冷静に自己分析する営みに他ならないのではないでしょうか。
人材を育てる過程では、教える側のストロングポイント、ウィークポイントが炙り出されていくもの。そこで、自分の至らない点から目を背けず、課題を真摯に受け止めて、自身の成長に繋げていけるかどうか。あなたに、その覚悟があるのか? ひいては、よき大人として次の世代を教え導き、少しでも明るい未来を継承していくことができるのか?
山本氏の説く人材育成の要訣は、そう私たちに問いかけているように思えてなりません。
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