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川沿いの絶景路線、長良川鉄道の旅

水戸岡デザイン車両、時刻表にない駅、SL転車台……

 

観光列車「ながら」

 岐阜県の郡上八幡への視察旅行に参加することとなった。本隊は東海道新幹線の岐阜羽島駅から貸切バスで向かうのだけれど、線路がある限りは列車に乗りたいので、希望者5人で長良川鉄道を利用した。幸い観光列車「ながら」を手配できたので、喜び勇んで始発駅の美濃太田より乗車した。

水戸岡氏がデザインした「ながら」車内

 列車は2両編成。JR九州の観光列車や新幹線でお馴染の水戸岡鋭治氏のデザインである。窓を向いた座席、木を多用したテーブル席、ソファー、のれん、と水戸岡デザイン車両に乗りなれているので、お馴染の「水戸岡ワールド」満載の車内だ。ランチは郡上八幡市内で旅の一行と食べる予定があったので、レストラン車両ではなく、先頭車の「ビュープラン」と呼ばれる座席のみの予約だった。予約と言っても座席指定ではなく、席数分しか切符を発売しない整理券なので、早い者順に好きな席が選べる。というわけで、窓を向いた席を確保した。

 美濃太田駅を発車する時点では、車内は数人のみと空いていたが、20分ほどで到着する関駅では団体客が大挙乗りこんできて、車内は瞬く間に満席となった。それまでに、車内の様子や乗車記念撮影を済ませておいて大正解だった。

 その次の美濃市駅を出てしばらくすると、左手に長良川が姿を現した。これより終点北濃駅まで、線路は長良川に寄り添うように続く。進行方向左手の窓を向いた席に座っていたのは大正解だった、と思いきや、列車は何回も長良川を渡る。その都度、長良川は車窓左手に右手にと位置を変えることになり、左右どちらがよいとも言い切れないようだ。

 席を離れ、運転台の横に陣取ってみる。立ったままながら前面展望が見渡せる特等席である。線路際には赤い彼岸花が咲き誇り、まだ暑いながらも秋が到来したことを実感する。車窓に関しては、乗車している女性アテンダントさんが、要所要所で案内をしてくれるので大いに助かる。

「ながら」のビュースポット停車

 列車は、美濃市駅を出ると、郡上八幡駅までの約1時間、時刻表上ではノンストップとなっている。ところが、およそ20分後、大矢駅で臨時停車した。長良川鉄道のディーゼルカーには全車両トイレがないので、トイレ休憩のためだという。時刻表に載っていないのは、大矢駅での乗降をさせないためなのだろうか。ちょっとミステリアスで、推理小説のネタにもなりそうだ。ホームには改装されてきれいになったトイレがあり、多くの乗客が利用する。この駅では10分以上停車するので、反対側のホームに行って、「ながら」の写真を撮ったり、レストラン車両の見学、運転台の見学も可能となり、皆のんびり過ごしている。その間に、上り列車がやってきて、あちらはすぐに美濃太田へ向けて発車していった。

 休憩が終わって大矢駅を出ると、左側に見えていた長良川が、一旦右手に移るものの、またすぐに左手に戻る。そのまま深戸(ふかど)駅を通過してしばらくすると、列車は駅でもないところで停車した。線路際には、「景勝地」の立札がある。窓の真下は長良川。アテンダントさんが、「窓を開けて爽やかな空気を感じ、長良川のせせらぎを聞いてみてください」とアナウンスしながら、車内を回って窓を開けるのを手伝ってくれる。川の中で鮎を釣っている人がいたので、みんなで手を振って挨拶をしてみた。

 まもなく列車は運転を再開。その後、2回長良川を渡り、この路線で一番短いという小さなトンネルを抜けると、郡上八幡駅に到着した。

長良川鉄道の終点北濃駅

 

北濃駅に残る転車台

 翌日、視察旅行が終わって、ひるがの高原から、地元の「長良川鉄道を、賑やかに、面白くする会」の会長さんのクルマで、長良川鉄道の終点北濃駅を訪れた。郡上八幡駅と同じような風格ある木造駅舎が立っている。線路は、終着駅にもかかわらず、ホームから少しだけ先へ延びているけれど、もう使っていないようで雑草に埋もれている。かつては、蒸気機関車が客車を切り離して先まで進み、バックしてホーム脇の転車台で向きを変えていたようだ。その転車台は、手入れが行き届き保存されている。アメリカ製の歴史的建造物で、登録有形文化財とのこと。始発駅の美濃太田駅にも転車台があるので、長良川鉄道にSL列車が走れば楽しいだろうなと思う。実際、沿線の小学校に保存してあるC58形蒸気機関車を走らせたいと夢想するグループがあるようで、同じことを考える人たちはいるものだ。

北濃駅で発車を待つディーゼルカー

 1時間近く待つと、たった1両のディーゼルカーがとことこと到着した。女子高校生が一人降りただけで、代わって折返しの列車に乗り込んだのは私だけだった。時間帯のせいかな、とも思うが、この鉄道の先行きが心配になる寂しさだ。もっとも、3つ先の美濃白鳥駅からは高校生が10人ほど乗ってきて賑やかになったので、ひと安心だった。

 小雨に煙る谷あいを、列車は長良川に沿って走る。周囲がやや賑やかになって郡上八幡に到着。これで長良川鉄道の完乗を達成、ここでは降りないでさらに南下し、みなみ子宝温泉駅で途中下車し、先ほどの会長さん達と少しだけ懇談したあと、帰路に就いた。

 

取材協力=長良川鉄道を、賑やかに、面白くする会

野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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