科学雑誌ブームとエロ雑誌としての『Quark』【新保信長】新連載「体験的雑誌クロニクル」4冊目 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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科学雑誌ブームとエロ雑誌としての『Quark』【新保信長】新連載「体験的雑誌クロニクル」4冊目

新保信長「体験的雑誌クロニクル」4冊目

 

 1982年当時、私は高校3年生。文系ながら科学好きではあったので、それらの創刊号を書店で手に取ってパラパラ立ち読みした記憶はある。が、経済的な事情もあり、買うには至らなかった。今回あらためてチェックしてみたところ、体裁はいずれも『Newton』と同じA4変形判、左綴じ、オールカラー(『OMNI』は一部2色)。値段は、『OMNI』と『UTAN』が『Newton』と同じ800円だったのに対し、『Quark』は720円とお得感を打ち出してきた。誌面全体のイメージとしては、硬派な順に『OMNI』>『Quark』>『UTAN』という感じ。翌年創刊の『コペル21』は、内容的にも590円という値段的にも明らかに子供向けだった。

 

各誌創刊号。『Quark』の表紙イラストはアース・ウインド・アンド・ファイアーのアルバムジャケットなどで人気の長岡秀星

 

  OMNI』は、アドバイザリー・スタッフとして、東大教授のほかアイザック・アシモフや手塚治虫も名を連ねる。広告界の大物・浅葉克己をアートディレクターに起用した誌面はクールだった。キャッチフレーズは〈SCIENTIFIC ENTERTAINMENT MAGAZINE〉。編集後記で〈科学が、はたしてエンターテインメントの素材たりうるか……これが、われわれスタッフに与えられた大テーマでした。この挑戦が成功したかどうか、読者のみなさんのご批評をお待ちします〉と述べる。

  UTAN』は、当時の人気数学者・広中平祐を編集顧問(2号目以降は責任監修)に立てる。キャッチフレーズは〈ファミリーサイエンス〉。〈20世紀の現代は,科学の時代と呼ばれ,科学のおもしろさ,楽しさなくしては何も語れなくなっている。(中略)このような史上かつてない高度な情報伝達,技術革新など,科学の発達の渦の中で成長してきたのが,20代,30代の世代であり,これから希望のある未来に向けて育っていくのが10代の若人である。/この若人たちは,今やこうした科学技術の発達,宇宙まで広がる大自然の探求などに熱い期待のまなざしを注いでいる。その期待にそうべく,ここに「UTAN」を創刊し,読者の皆さんと共にこの科学誌を育てていきたいと思う〉というとおり、やや若向けの印象だ。

  Quark』は、特に著名な科学者を前面に出すことはなし。一応、〈visual science magazine〉と銘打たれてはいるが、それもあまり強調はしていない。ただし、編集後記には他誌への対抗意識がにじみ出ている。

 〈いろいろな科学雑誌が出ています。「どれにしようか」と、読者の方も迷われるかもしれません。/科学を、SFや娯楽とからませて扱うのも一つの行き方です。あるいは、高校カリキュラムの進行に合わせて雑誌づくりをする、というのもアイデアではあります。/しかし、雑誌というからにはまず、先端的な、新しいテーマを平易に紹介することを期待している方が多いのではないでしょうか。/本誌は現代科学の最先端に正面から取り組みます。その意味からも、「クォーク」という、物理学の最前線の素粒子の名をあえて誌名に選びました。/もう一つ、わかりやすくて面白いこと。これは講談社の伝統です。「クォーク」でも大事に守っていきたい原則であると考えています〉

  かくして勃発した科学雑誌バトル。しのぎを削る3誌に対し、先行する『Newton』は余裕の構えだった。ちょうど創刊1周年となる1982年7月号の「編集室から」で竹内均は次のように綴っている。

 〈今や毎号40万部の部数を売りつくす科学雑誌にまで成長した。(中略)Newtonは,それ自身がひとつの博物館といってよいだろう。ひと月に40万もの人がやってくる博物館などめったにない。その博物館の館長を務めていられることを幸福に思う〉

  そんな科学雑誌ブームを気にしつつも傍観していた私だが、その後、大学生、社会人になってからは、特集によって買うこともあった。買うのはだいたい『OMNI』か『Quark』。『Newton』は教科書的すぎるというかデザインがイマイチ趣味に合わなかったし、『UTAN』『コペル21』は前述のとおり子供っぽく感じた。

 当時に買って今も手元に残っているのは、たとえば『OMNI198510月号。特集「RETURN FROM SPACE」は立花隆『宇宙からの帰還』を原作とした同名映画の公開に合わせた企画で、立花隆のインタビューも掲載されている。87年9月号にはロケットの父と言われるフォン・ブラウンの直筆設計図や日本版スペースシャトル計画のほかアーサー・C・クラークの短編小説も掲載。宇宙ネタなら『OMNI』というイメージがあった。

  そして、恥ずかしながら、一番よく買ったのが86年から87年にかけての『Quark』である。なぜ「恥ずかしながら」なのかというと、この時期の『Quark』は、ほぼエロ雑誌だったからだ(エロネタ苦手な方はここでページを閉じてください)。

次のページ科学の名を借りたセックス&女体特集を連発!

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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