『広告批評』袋とじの衝撃【新保信長】新連載「体験的雑誌クロニクル」5冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」5冊目
2000年代に入ってからは、自分がテレビをほとんど見なくなったこともあり、広告(CM)への興味も薄れ、毎号ではなく気になる特集のときに買うぐらいになっていた。記事によっては首を傾げる部分がなくはない。それでも、多感な時期に大いに影響を受けた雑誌である。「一度は仕事をしてみたい!」という憧れのようなものは持ち続けていた。
それが叶ったのが、2008年9月号の「マンガ☆新世紀」だ。浅野いにお、オノ・ナツメ、瀧波ユカリ、中村光、西島大介、福満しげゆき、安永知澄という注目株の若手漫画家7人のインタビューをメインとした特集で、マンガ解説者・南信長として原稿を書いた。
題して「『破壊』から『再生』へ向かうゼロ年代作家の皮膚感覚」。前述の7人を含む20人超の作家を9ページにわたって紹介、解説した。頼まれもしないのにゼロ年代作家のマトリックス図まで作ったのは、同誌への思い入れの表出でもある。
しかし、同誌は2009年4月号をもって30年の歴史に幕を閉じる。2008年5月の時点で休刊は発表されていた。なので、執筆依頼が来たときには「ギリギリ間に合った!」と喜びもひとしおだったが、好きだった雑誌がなくなるのはやはり寂しい。
最終号は356ページの大ボリューム。著名人による対談や座談が6割以上を占めているが、むしろ注目すべきは「広告批評30周年記念広告」だ。60近くの有名企業が広告を出している。単に「お付き合いで出しました」的なものも多いが、同誌の30年の歩みに敬意を表したいくつかの広告にグッとくる。
ソフトバンクの“お父さん犬”が〈広告批評はもう叱ってくれないぞ!〉と言えば、〈ちょっと褒められたり、たまに叱られたり。カップヌードルの広告は「批評」されて鍛えられました。ありがとう、広告批評。〉と日清食品が記す。朝日新聞が記事風に〈マス広告 万能時代に幕〉〈ネット台頭 業界変化を象徴〉といった見出しで休刊を報じたり、一六タルトで知られる一六本舗が「伊丹十三記念館」のおみやげである十三饅頭を逆さまにして〈(三十)年間ありがとう。〉とやったのも気が利いてる。
そして表4(裏表紙)では、サントリーBOSSの〈宇宙人ジョーンズ〉が〈この惑星の広告批評に、もっと批評されたかった……。〉と、寂しげにたたずむ。まさに『広告批評』という誌名の面目躍如というか雑誌冥利に尽きるエンディング。創造性の欠片もない今のウェブ広告のありさまを考えれば、いいタイミングでの幕引きだったと言えるだろう。個人的にも「ありがとう」と言っておきたい。
文:新保信長