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充実した人生に唯一必要なもの【森博嗣】連載「日常のフローチャート」第35回[最終回]

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第35回


森羅万象をよく観察し、深く思考する習慣を身につけよう。すると新しい気づきが得られ、日々の生活はより面白くなる。森博嗣先生の連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッド。今回で連載は最終回です。 ✴︎連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」がついに単行本化され発売に! 総頁数:344頁。未公開の書き下ろし原稿(第36〜40回)も収録。視点が変わると、人生も変わる!あなたにとって大切な一冊になるとお約束します!


 

 

第35回 充実した人生に唯一必要なもの

 

【長生きしたいのは何のため?】

 

 人生がどうあってほしいかという希望は、人それぞれだから、こういったテーマは語りにくい。有意義であってほしいか、楽しくあってほしいか、それとも自分の思うとおりであってほしいか、など抽象的な言葉で表現しても、いろいろバリエーションが考えられる。多くの人は、「どうだって良い」とまでは思っていないはずだ。むしろ逆に、苦しみたくないとか、平穏であってほしいとか、あるいは、平均的で普通ならばそれで良いと消極的に考える人もいるかもしれない。多数を対象にアンケートでも取らないかぎり実態はわからないし、アンケートなんかでわかるのかな、との疑問も残るだろう。

 たいていの人は、「長生きしたい」と答えるかもしれない。たしかに、「早死にしたい」という意見はマイナだ。よほどの理由がないかぎり、早く死にたいとは考えないらしい。ただ、若いうちにやりたいことをやり尽くし、事故かなにかで、周囲から惜しまれて死にたい、と願う人はいるかもしれない。昔はそういうのを「太く短く」と表現したものだ。

 さて、長生きしたいという願望は、どうして長生きが良いのかという点を曖昧にして、言葉だけが一人歩きしている。言葉が一人歩きする例は、一般に多岐にわたって非常に多い。ほとんどの人は、「長生きしたい理由」を具体的に考えていないように観察される。たとえば、「何歳まで生きたいか?」と追加の質問をすると、「平均寿命くらいは」と答える人が多く、「最低でも百歳まで」といった返答はむしろ少ないようだ。欲が深いことが嫌われる日本の文化かもしれない。

 長生きしたいという願望は、実は、病気や怪我などで苦しみたくない、という意味が隠れている、と想像できる。やはり、なにごともなく平穏でいたい、それが幸せだというところへ行き着くようだ。しかし、こう問いたい。「だから、なにごともなく平穏な状況は何のためなのか?」

 平穏な毎日、なにもトラブルがない日常、それはつまり、今現在の日々のことだろうか? 今が幸せで、これが未来にわたって、できるだけ継続してほしい、という願望だろうか。だとすれば、平凡な今の生活が人生の目標だったのだろうか? 不満はないのか。もっと望んでいること、欲しいものはないのか。

 なんだか、人生というのは、生きなければならないノルマのようなもので、老齢になると、もう自分はノルマを果たした、これで充分だったはず、高望みはしない、ただ、もう少し生きていたい、といった心境のようにも想像される。皆さんは、いかがだろうか?

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「無事」を重ねることが、人生の成功である。少し気をつけていれば、誰でもできる。ときどき予期せぬ不運が襲ってきても、また少しずつ無事を重ねて挽回していけば良い。勝たなくても良い。負けても良い。またの機会を待てることこそが、成功の価値なのである。(第35回「充実した人生に唯一必要なもの」より抜粋)

 

◉人生はプログラミング◉水を差しにくい社会◉話し上手と書き上手

◉老人になっても社会人である◉余計なものを持つことの価値

◉気持ちという質量◉「潔癖社会」純度上昇中◉ジェネラリストは存在しない?

◉どうなれば成功なのか?◉適度な自己中のすすめ◉アイデアを思いつける人

◉思いつきの手法◉新しい価値は無駄から生まれる◉頭は知識で肥満になる

◉楽しければそれで良いのか?◉効率か快適か、それが問題だ

◉自己利益が最重要な方針◉作るために必要なこと

◉一人でいることは、自由の象徴◉充実した人生に唯一必要なもの

◉AIが活躍する未来って?◉的確な質問をする能力

◉ネットのモラルはこれから◉フィクションを楽しむ条件

◉いつ死んでも良い生き方とは etc.

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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