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「インフル新薬」には飛びつくな!感染症の賢人・岩田健太郎が「僕なら絶対に買いません」と語る理由

『インフルエンザなぜ毎年流行するのか』より

■ イナビルはインフルに効かない?

 さて、海外で行われた臨床研究で、イナビルの効果はプラセボ群(いわゆる偽薬群)と比べて差が見られませんでした。つまり、イナビルはインフルエンザには「効かない」ことが示唆されたのです(Efficacy and Safety Study of Laninamivir Octanoate TwinCaps® Dry Powder Inhaler in Adults With Influenza-Study Results ClinicalTrials.gov[Internet].[cited 2018 Aug 20]. Available from: https://clinicaltrials.gov/ct2/show/results/NCT01793883)。

 というわけで、ぼくは日常診療のインフルエンザ治療にはラピアクタもイナビルも使いません。あと、リレンザも吸入が難しい患者さん(とくに高齢者)も多いので、結局、ノイラミニダーゼ阻害薬ではタミフルを使うことが圧倒的に多いです。

 というか、そもそもノイラミニダーゼ阻害薬を使わなければならない、ということもないのです。インフルエンザは基本的に自然治癒する感染症で、絶対に病院受診が必須というわけではありません。しんどかったら受診して薬をもらってもよいですが、待ち時間がイヤ、とか家で寝ていたい、という人は無理して医療機関に来なくても家で寝ていれば(たいてい)治ります。

 また、発症48時間以上経つとインフルエンザにノイラミニダーゼ阻害薬は効果がなくなります。ですから、こういうときはどっちみちタミフルなどは使えません。ぼくはこういうとき、桂枝湯など漢方薬を出すことが多いですが、アセトアミノフェンなどの対症療法でも良いと思います。ボルタレンなどのNSAIDsと呼ばれる薬は脳症やライ症候群といった重症合併症のリスクがあるため、やめておいたほうがよいです。ときどき医者も間違って出してることがありますね。注意、注意。

 まあ、そんなわけで、インフルエンザの治療といってもいろんな選択肢があるわけです。必ずしもひとつのやり方に固執しないことも大事です。

■高い新薬にすぐ飛びつくな

 ときに、最近、「ゾフルーザ(バロキサビル)」という新しいインフルエンザの薬ができました。ノイラミニダーゼ阻害薬とは異なる作用でインフルエンザ・ウイルスに効果があり、タミフルと異なり、一回飲むだけで治療が終了するという薬です。なんか、便利ですね。

 ところが、です。この新薬 (Hayden FG, Sugaya, Hirotsu, N, Lee N, de jong MD, HurtAC, et al. Baloxavir for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents. New England Journal of Medicine. 2018 Sep;379(10):913-23.)、小児についても有効性を示すデータがありません。何より副作用や他の薬との相互作用の情報も十分ではありません。大人の研究では治療効果はタミフルと引き分けでした。要するに「タミフルくらい効くけど、子どもではよく分からない。安全性も分からない」という薬です。お値段はタミフルよりも高いです(新薬は一般的に割高なのです)。

 普通の買い物で、「効果は同じか不明、安全性は不明、値段は高い」ものを買うでしょうか。それが車であれ、不動産であれ。ぼくなら絶対に買わないですね。

 日本では、医者も患者もすぐに新薬に飛びつく悪い癖があります。が、新薬=ベターな薬とは限りません。とくに、安全性については古い薬のほうがずっと情報量が多いのでより安心です。使用経験が多いほど安全情報は優れているのです。騙されないようにしましょうね。ぼくなら現時点ではインフルエンザにゾフルーザは使いません。

 なんか、使わない、使わない、みたいな話ばかりになってしまいました。でも、感染症の知識が多ければ多いほど、実は余計な薬は使わなくなるのです。中途半端な知識のママで製薬メーカーに勧められる医者が安易に新薬を処方する。これも、残念な日本の実態です。患者の方が賢くなって、こういう安直な診療に注意しておく必要があります。

文:岩田健太郎

『インフルエンザ なぜ毎年流行するのか』より構成〉

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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