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中居正広&フジテレビ攻撃から文春バッシングへ! 人はどうして「キャンセル」に魅せられ、破壊へと突っ走るのか?【仲正昌樹】

キャンセル・カルチャーの真実「破壊することは果たして正義か?」

1月28日に行なわれたフジテレビ会見。会見が終わり、会場を後にするフジテレビの港浩一前社長(手前)

 

■当事者間で実際に何があったのかは明らかになっていない

 

  中居正広氏に対する性的接待疑惑に端を発する一連の騒動はなかなか収束の気配を見せない。芸能人の性的スキャンダルが大規模な炎上やスポンサー企業との契約打ち切りなどに発展したことはたびたびあったが、今回は、フジテレビが組織ぐるみで接待を行い、組織をあげて隠蔽しようとしているのではないか、という「フジテレビ問題」へと発展していることがこれまでのものとは決定的に異なる。

 当事者たちの間で実際に何があったのかはほとんど明らかになっていないにもかかわらず、フジテレビ攻撃は激しくなっていく。一部のマスコミやネット論客たちには、もはや真相解明など二の次、三の次で、フジテレビの解体を目標にしているとしか思えない論調も見られる。まさに「キャンセル(抹消)・カルチャー」だ。人はどうして「キャンセル」に魅せられ、破壊へと突っ走るのか?

 今回の騒ぎが異様なのは、中居氏と被害者とされる女性の間に実際どういうことがあったのか、示談が成立したはずなのにどうして被害者の証言が表に出てきたのか、両者の間に依然として何らかの具体的な紛争があるのか、フジテレビはそれにどのような形で関与していたのかといったことが明らかでないまま、というか、そうした肝心なことの解明にあまり関心が向けられないまま、どんどん話が大きくなり、当事者たちが悪魔化されていったことだ。

 

中居正広

 

 中居氏が芸能界を引退することが当然視されるというより、むしろ「逃げた」と結論付けられた。フジテレビの幹部が中居氏の接待のために当該の女性を呼び出したこと、女性をタレントに献上する接待が日枝久フジサンケイグループ代表以下の幹部の意向で恒常的に行われていること、同代表以下の幹部が隠蔽を画策していたことなどが、真相究明を待つまでもなく、確定した事実であるかのように見なされ、その前提で、報いを受けさせるべくマスコミとネットのリンチが進行した。

 一月十七日の港浩一社長の会見が、取材を制限し、肝心な質問に答えなかったことが話題になると、フジテレビ自体が組織的に性的接待を女性アナウンサーに強要している、と断定し、フジテレビを解体に追い込もうとする論調が一挙に強まった。トヨタ等の大企業が相次いでCMを取り下げたことで、“フジテレビ解体”を待望する声が高まった。

 この間有田芳生議員(立民)や舛添要一元都知事のように、自分も実は中居氏への性接待について聞いていたが、本人のプライバシーに配慮して今まで黙っていた、と便乗して注目されたがる人たちが名乗り出てきた。どうしてそれまで自分で何もしなかったのか? プライバシーに配慮して黙っていたのなら、何故今頃便乗するのか? 本人に許可を取ったのか?

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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