Kが感動したインレイの美と職人の情熱「昔の技術を学び、現在に生かしたい」
第4回 インレイ 加藤穂高さん(三重県津市)
ギターを装飾するはめ込み細工であるインレイ。天然の貝殻を組み合わせることで生まれる美しい工芸品。その技術を身に着けるために、アメリカの工房で修業した加藤さん。そして、Kさんは「ステージの演出効果にもつながる」とインレイの美しさに魅了されていた。一方、1300年前の日本でも螺鈿細工として工芸品に施されていた。
絵を描くように、演奏を妨げないデザイン
インレイとは、大きな貝から小さなパーツを切り取り、それを張り合わせることで描く絵画。しかも光に反射する貝の特性が新たな美しさを生む。インレイはギターのヘッドストックやネック、ボディなど、あらゆる場所へ施すことが可能。その制作はデザインを描くところから始まる。
「どんなに美しいデザインであっても、楽器の演奏を邪魔しては意味がありません。例えば、指板の図案を作るときには、フレットやポジションマーカー(フレットの数を表す)などがしっかりその機能を果たせることを考慮しなければなりません。このフレットを避けながらモチーフを配置し、なめらかな線を生み出す図案を作るのは大変なんですよ」。
こう話すのは、インレイのカスタム制作を手掛ける加藤穂高さん。鉛筆を走らせ、手で図面を描くことにこだわりを持つ。
「細かい作業ですが、手で引くことが大事だと思っています。『あと数ミリ右に寄せよう』と線を引き直す時、フッと全体の構図を見るだけで、反射的に必要な線を必要な場所に引けるんです」。センス、感覚を活かすためにも手で描くことが重要なのだろう。
そして次は、素材となる貝を図案に沿って切る。使用するのは貝の内側。何層にも重なっている貝のどの部分をどこへ使うのか? この選択がもっとも時間のかかる作業だと話す。「今切っている時点の状態だけでなく、ギターに埋めて、磨いたあとにどう変わっていくのかも考えます。何種類もの貝を使い、隣り合わせた貝の色のバランスも考えます。そうすることで立体感や表情が出てくるんです」。
インレイに使われるのは、外国産のアワビ貝などの大きな貝だ。その貝、素材を選ぶところから加藤さんの仕事は始まっている。「貝は大きくなるほど、色の層がたくさんあるし、インレイに使用するための厚みもあるんです。しかし、最近では捕獲制限がかかる貝も増えて、希少価値が高まっています。僕が手掛けるインレイのほとんどがオーダーメイド。アーティストや楽器メーカーなどの要望やテーマに沿って、図案を引き、素材を選んでいきます」。