「保守」を偽装するエセ保守界隈と日本人は決別せよ!【適菜収】
【隔週連載】だから何度も言ったのに 第80回
われわれの社会がここまで腐りはてた原因の一つは「保守」という言葉の混乱にある、と適菜収氏は言う。議論の前提が間違っているから混乱が発生する。それに乗じて、エセ保守、ビジウヨの類が跋扈してきた。産経新聞、『正論』、『WiLL』、『Hanada』……。「日本スゴイ」と思考停止の自慰史観にひたり、生温かい世界で充足していられる余裕などすでにわが国にはない。今こそ、保守の本質に学び、エセ保守から決別すべきである。新刊『「保守思想」大全――名著に学ぶ本質』(祥伝社)で、過去の賢人が語った保守思想の本質をまとめた適菜氏の「だから何度も言ったのに」第80回。
■前近代に保守主義は存在しない
「人間の本性には不思議な力があるものだ」「われわれがほとんど希望を失ってしまったときにかぎって、われわれにとっては良いことが準備されるのだよ」とゲーテは言った。国は衰退、政治は腐敗、多くの人が絶望する中、いくつか明るいニュースがあった。
戦後最悪の総理大臣安倍晋三の妻の昭恵と深いつながりがあった森友学園に、国有地が格安で売却され、決裁文書が改竄された問題で、大阪高裁は、関連文書の存否を明らかにしないまま不開示とした、財務省の決定を取り消す判決を言い渡した。遅きに失するが、それでも第一歩である。まだ油断はできないが、少しずつでも世の中が正常化していくのはいいことだ。もっともこれ以上、落ちようがないだけかもしれないが。一昔前に情弱のネトウヨが「いつまで森友問題をやっているのか」などと言っていたが、これからやるのである。
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1月30日、旧安倍派の会計責任者の参考人招致が、異例の野党による賛成多数で議決された。元会計責任者は「出席は差し控える。これ以上申し上げることはない」とする文書を出したが、これも第一歩である。いつまでも逃げ回るのは許されない。
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産経新聞社が発行するタブロイド紙『夕刊フジ』が、2月1日付をもって休刊した。
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この30年でわが国が凋落した原因の一つに、知的混乱がある。自民党はそれを悪用し、プロパガンダにより、情報弱者を洗脳・動員することで、権力基盤を固めていった。その過程で自民党は変質。かつては少数ながらも党内に存在した「保守派」はほぼ壊滅。財界の手下やカルト勢力が政界に潜り込み、国に大きなダメージを与えるようになった。
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安倍晋三という究極の売国奴・国賊を礼賛してきたのが周辺のエセ保守「文化人」だった。連中は安倍のおでこに「保守」「愛国」というシールを張り付けていたが、今では、新自由主義勢力、右翼、単なる反左翼、権力に阿(おもね)る乞食言論人、情弱のネトウヨ、卑劣なヘイトスピーカー、デマゴーグ、反日カルト、陰謀論者といった保守の対極にある連中が、白昼堂々と「保守」を自称するようになった。
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近代の正確な理解がないところに保守主義は成り立たない。なぜなら、保守主義とは、近代理念の暴走を警戒する知的で誠実な態度のことであるのだから。よって、前近代に保守主義は存在しない。それがわからないと近代社会において発生する「大衆」の本質も、近代特有の病である「全体主義」も、近代国民国家(nation state)を成立させる原理であるナショナリズムもなにもわからないことになる。国家主義と国粋主義の区別がついていない人も多い。右翼と保守、新自由主義と保守の区別もついていない人もいる。これでは議論にならない。
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そもそも保守主義は「主義」とついているものの「主義」ではなく、逆に「主義」を否定する態度のことである。ここを最初に理解しないとすべて間違う。保守はイデオロギーではないので、「正しい考え方はこれだ」と掲げるような存在ではない。逆に、自分の正義に安住して思考停止することを戒める。自分の理性すら信用しない。人間は間違える存在だということを前提とする。
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