横塚眞己人『さがりばな』 一晩しか咲かない花の命の輝き【緒形圭子】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

横塚眞己人『さがりばな』 一晩しか咲かない花の命の輝き【緒形圭子】

「視点が変わる読書」第17回 『さがりばな』横塚眞己人 著


何が起きるか予測がつかない。これまでのやり方が通用しない。そんな時代だからこそ、硬直してしまいがちなアタマを柔らかくしてみましょう。あなたの人生が変わるきっかけになる「視点が変わる読書」。連載第17回は、横塚眞己人著『さがりばな』(講談社)を紹介します。


『さがりばな』横塚眞己人(講談社)

 

 

「視点が変わる読書」第17回 

一晩しか咲かない花の命の輝き

 

 

 112日、氷見に行った。

 富山県の北西部に位置する氷見市は関東から遠いというイメージを持っていたが、東京から北陸新幹線に乗れば、3時間弱で新高岡につく。東海道新幹線なら、ちょうど新神戸くらいだ。そこから、城端線、氷見線と乗り継いで、約45分で氷見駅に到着! 

 氷見線は富山湾沿いを走る。途中雨晴海岸にさしかかるや、それまで座っていた乗客が総立ちになった。目の前に広がるのは、紺碧の海原。のんびりした太平洋と違って、凪いでいても何処となく厳しい印象を受けた。

 週間予報では大雪のはずが、東京よりも天気が良く暖かいくらいで、海の向こうに立山連峰の雄姿を拝むこともできた。立山連峰は晴れた日でも、雲や靄がかかって見えないことが多く、年に60日しか姿を見せないという。

 氷見駅からは送迎の車に乗って、10分ほどで宿「うみあかり」に到着。荷物をほどくや、温泉に入った。露天風呂から眺める立山連峰は日の光に輝き、氷見の第一印象はすこぶる良いものとなった。

 今回の氷見行の目的は13日に氷見市芸術文化館で開催される、女優の紺野美沙子さんによる「朗読座 氷見・能登応援公演」を見ることにあった。

 2010年、紺野さんは地域文化の向上と舞台芸術の発展を目的として朗読座を立ち上げた。これぞと選んだ作品を自ら朗読し、それに音楽や映像、影絵など様々なジャンルのアートを組み合わせる。朗読される作品は「スーホの白い馬」、「ベルベッドのうさぎ」、「鶴の恩返し」といった民話をはじめ、古典「源氏物語」、茨木のり子の詩、原爆でわが子を亡くした母親の手記「星は見ている」など多彩である。

 

女優・紺野美沙子さん

 

 これまでいくつかの公演を見たが、中心となる朗読は、ただテキストを分かりやすく読むだけでなく表現力が必要だ。巧みな感情移入によって物語世界を展開させていて、表現者としての女優の力を感じた。そこに音楽や映像が加わることで、さらに物語世界を深化させ、観客を引き込んでいくのだ。

 この度の公演は能登半島地震からの氷見や能登の復興を願って開催されたもので、収益金は全て氷見市と石川県に寄付されるという。

 1314時から氷見市芸術文化館で朗読座の公演が始まった。ホールの800席は満席だった。第一部の「あなたが輝く言葉とメロディ」は、竹村夕子さんのピアノとMiMiさんのハンマーダルシマーによって、『男はつらいよ』、『スターウォーズ』、『冬のソナタ』など東西の名画の曲が演奏され、そこに紺野さんが映画の名セリフを挿入していくという趣向だった。ハンマーダルシマーは弦打楽器で、台形の共鳴体に張られた多数の弦をハンマーと呼ばれる撥で打って演奏する。ピアノと箏の音色がミックスされたような不思議な音だ。氷見で活躍する芸人、吉田サラダさんも出演して、場を盛り上げていた。

 さらに、谷川俊太郎の詩「生きる」の群読。出演者と観客が一体となった声がホールに響きわたった。

次のページ朗読座の代表作である「さがりばな」が朗読される

KEYWORDS:

✴︎KKベストセラーズ 好評既刊✴︎

福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる

 

 

国家、社会、組織、自分の将来に不安を感じているあなたへーーー

学び闘い抜く人間の「叡智」がここにある。

文藝評論家・福田和也の名エッセイ・批評を初選集

◆第一部「なぜ本を読むのか」

◆第二部「批評とは何か」

◆第三部「乱世を生きる」

総頁832頁の【完全保存版】

◎中瀬ゆかり氏 (新潮社出版部部長)

「刃物のような批評眼、圧死するほどの知の埋蔵量。

彼の登場は文壇的“事件"であり、圧倒的“天才"かつ“天災"であった。

これほどの『知の怪物』に伴走できたことは編集者人生の誉れである。」

オススメ記事

緒形圭子

おがた けいこ

文筆家

1964年千葉県生まれ。慶應大学卒。出版社勤務を経て、文筆業に。

『新潮』に小説「家の誇り」、「銀葉カエデの丘」を発表。

紺野美沙子の朗読座で「さがりばな」、「鶴の恩返し」の脚本を手掛ける。

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

さがりばな
さがりばな
  • 横塚 眞己人
  • 2011.03.25
福田和也コレクション1: 本を読む、乱世を生きる
福田和也コレクション1: 本を読む、乱世を生きる
  • 福田 和也
  • 2021.03.03
ユリイカ 2025年1月臨時増刊号 総特集◎福田和也  ―1960-2024―
ユリイカ 2025年1月臨時増刊号 総特集◎福田和也  ―1960-2024―
  • 重松清
  • 2024.12.27